星のことばかり話している.きのうは流星群について話した.きょう話したのは恒星の重力収縮と原子核融合のこと.数年越しにやっと読み終えた短編集は『月の部屋で会いましょう』だし,月初に会った友人とはホルストのThe Planetsを肴に飲んだ.そういえば,そろそろ始まるミュシャ展には"黄道十二宮"も展示されるらしい.星にも宇宙にもそれほど興味を持ったつもりはないのに,なんだか天文学的な12月だ.プラネタリウムに行きたくなってくる.

 

本を買ってしまう.紙の本を買ってしまう.呪いだ.悔しい.きっと本には雄と雌があって,書棚の影や引き出しの中で,僕の目を盗んでは生殖し,増殖している.そうに違いない.いい加減にしてほしい.紙の本は平然と生活空間を圧迫する.床に積まれて引き出しを埋め,机を覆う.やがて,およそ室内の手頃な水平面を片っ端から占拠する.それに重い.セルロースという忌まわしき不導体の重さだ.まして『文字禍』の時代にはこれが陶板だったと思うと絶句するしかない.想像もしたくない.僕は別に愛書家ではないし,物体としての書物にはなんの思い入れもない.2年前には蔵書をごっそり処分して,電子版への完全移行を目指したくらいだ.もちろんこの試みは今も続いているが,心惹かれる本に限って電子版が存在しない.憤ろしい.まったく人類はいったい,いつまで紙の本という権威ぶったノスタルジアに膝を屈し続けるのか.音声データがこれだけ洗練された商流を確立した21世紀に,なぜ人間は印刷されたテキストデータごときに魂を縛られているのか.不可解だ.だいたい,"出版"という字もいけない.publish という語の本質を捨ててこんな訳字をあてたせいで,ファッショナブルな知性をありがたがる連中の感受性が物質的書物と癒着してしまった.嘆かわしい.この際,人類はいい.勝手に印刷物の虜囚になっていればいい.ただ,僕はもうごめんだ.僕だけは解放してくれ.僕が読みたい本だけは,すべて電子版も製作してくれ.ちょっとくらい値が張ってもかまわないから.