日曜日という空白.時間はふわふわとただよった.寝ながら読んでいた本を閉じると,当たり前に,そこには低い天井がある.壁と同じ,白くざらついたクロスを貼った天井の,その白さを不気味に思って,僕は身体ごと目を逸らした.寝返りと言えなくもない.ごろりと目を逸らした先にある,壁の白さや質感には満足しているのに,なぜ,この天井はこんなにも不気味なのか.壁紙を撫でながら5秒ほど考えて,答えらしきフレーズにたどり着く.曰く,天井は壁ではない.

 

歪んだ美術館を想像する.床面も壁面も天井も,ジグザグ,うねうね,秩序なく曲がりくねって,三半規管を混乱させる.基調となる色彩もなく,雑多な中間色が失敗したパッチワークみたいに空間を覆っている.ジリジリと,照明灯の点滅にもどうやら規則はない.キュレーションには工夫も意図も感じられず,画用紙に描かれた下手な抽象画がやけに立派な額装で掛けられていたり,血の付いた銀の弾丸がアクリルケースに入って足元に転がっていたりする.他にも,腐った肉を模したカルセドニー,巨大な万年筆の蓋,深海で拾われた子ども靴,ドードー鳥の羽毛,など,など.嘘か本当かわからない,意味のなさそうなものばかりが,意味ありげに展示してある.例えば,そんな"美術館"に迷い込んでしまったとする.

五感への絶え間ない攻撃.平然と,訳知り顔で鑑賞を続ける他の多くの"来場者"たち.彼らの咳払いや,ささやき合いの不協和音.一歩踏み出すごとにめまいがする.吐けるものも無いまま吐き気だけが続く.そんな場所で,出口を探してさまよって,さまよって,ついに疲れて,近くの壁にもたれかかる.すると,その壁がくるりと回転して,身体はバランスを崩して,そのまま壁の中に転がり込む.

壁の内側,起き上がるまでもなく,すぐに違和感に気がつく.静かだ.音がない.賑やかしい色もない.見ると,上下左右すべての壁は完璧な平面で,むらなく真っ白に塗られている.ゆっくりと立ち上がり,振り返る.広い部屋ではないが,ほぼ,無音.自分以外には誰もいない.部屋の形は見たところ,正確に立方体となっているようだ.そしてそんな純白の立方体の,ちょうど中心に,鈍く光る銀色の球体が浮いている.歪んだ美術館での消耗の末,偶然たどり着いた,幾何学的に完全な部屋と,完全なオブジェ.

救いとは,つまりそういうものだと思う.