ばかばかしいほど真っ暗な部屋.電気を消した冬の黎明けは芯まで暗い.換気のための窓の隙間から吹きこむ雪の匂い.つんとした静けさ.時を止めるなら今しかない.僕は起き上がって,時計の電池を抜いた.

一日がどろっとしたまま過ぎていった.粘度が高くて,生ぬるくて,動物くさい,いやな一日だった.本を読もうとして,本なんてちっとも読みたくないことに気がついた.水を飲もうとして,喉が渇いていないことに気がついた.呼吸しながら,呼吸ってどうしてこんなに頻繁なんだろうと不思議に思った.骨の上から心臓を撫でて,もっとゆっくりでもいいんだよ,と声をかけた.心臓は僕の言葉を完全に無視して,淡々と仕事をこなし続けていた.せっかく気遣ってあげたのに.

氷った水たまりを踏みたくなった.うまく枯れた落ち葉を踏みたくなった.どちらも踏むと,気持ちよく砕けて,粉になる.足の裏から鼓膜に伝わる,ザクッとした感触を思い出して,身慄いする.

ベッドの中の頭の中で,音楽だけが鳴り止まない.あのとき君が歌っていたメロディ.単調なリフレイン.曖昧なリリック.こんなに中途半端な音楽の断片が,なぜ忘れられないんだろう.音痴で間の抜けた歌声.忘却の旋律