また思いついてしまった.思いついてしまったら行動に移すしかない.思いついてしまったことを,行動に移さずにいられるような強靭な理性と合理性が備わっていたなら,いま,僕の人生はこんなふうになってはいない.そして,今の自分の人生を後悔こそすれ,まるで反省していないので,また思いつきで,美術検定なるものを受験することにした.

美術検定というのは美術に関する知識テストのようなもので,要は英検や漢検の美術版だと思えばそれほど外れない.得点制ではなく級ごとの認定制で,だいたいどの級に関しても60%が合格ラインとのことだ.

今日から数えて,素晴らしいことに試験日まであと10日を切っている.まだ公式の問題集も,テクストも開いておらず,1文字たりともノートを取らず,ただ漫然と関連しそうな情報を垂れ流しては飲み込んでいるだけで,ここまでの総学習時間は体感8秒,実際には3時間くらいだろうか.いずれにせよ準備不足ここに極まれりといった様相を呈している.

僕は昔からこうしたテストの類にはめっぽう強い.能力が高いからではない.要領も悪い.勤勉でもない.ただ,愚直だから強い.しかし愚直が実るのはたっぷりと準備期間があるからであって,今回は先にも確認したとおり,時間がない.時間がないので愚直さは通用しないかもしれない.まったくもって不本意ではあるが,今度に限って憎むべき効率性の悪魔と契約する必要があるかもしれない.仮にその契約が成立したとして,僕が燔として差し出すものはいったい何だろう.きっと好奇心のままにスプロールしてゆく有機的な知識の拡がりそのものなのだろうな,と思っては,少しげんなりする.さあ,夜明けには届くはずのテクストと悪魔の足音とを待って,今夜は眠るとする.