強い疲労感.倦怠感.やはり,春の倦怠は一種独特のものがある.たとえば夏の倦怠はむしろ消耗と呼ぶべきもので,秋の倦怠はノスタルジアで,冬の倦怠はおおよそ絶望なり失望なりと言い換えて差し支えのない場合が多い.その点,春の倦怠はそれらとは直交する概念であり,倦怠としか表現しようのない,たくさんの些細なニュアンスを乱暴に,無理やり一つに固めたような,ザラザラした手触りがある.瘴気といういい言葉があるが,つまり,春はかくも瘴気に満ちている.

区役所に行く道すがらに桜を見た.見たと言っても,視界に掠めた程度のもので,立ち止まって眺めるでも,写真を撮るでもなく,ただ,桜の,枝ぶりを覆う無数の花びらを背景に,舗装されたばかりの新しい道を,ゆっくりと歩いた.