スープを作る.スープを作ることにした.朝にだ.可能なら毎朝だが,まあ無理だろう.作りたい朝に作ることになりそうだが,そう言っているとなかなか興に乗らないもので,妻に対する非言語の詫び状として,すくなくとも向こう2ヶ月は続けていきたいと思う.…

ふいに危機がふってわいた.ふってわいたその危機,ないし,僕にはどうにも危機としか見えないものを,ふしぎな落ち着きと客観性をもって,僕はいま眺めている. かつて,危機はもっと切羽詰まっていた.もっと切実で,悲痛で,主観的で,どこか綺麗だった.…

癒しも施しも全て.何を癒しと呼び何を施しとするか.それを決めるのは,決めていいのは,ただ癒され,施されたその人だけで,他の誰でもない.すなわち,最初から癒しであるような効果はなく,また,最初から,ア・プリオリに施したりうる行為もない.僕が6…

待たせてごめん.きっとずっと僕が来るのを待っている.かつてのあなただったら今の姿を僕に見せたくないだろうなと思って,時世を言い訳に会わずにおこうと,ずっと思っていた.だけど,たぶんずっと僕を待っているんだろうね.心配ばかりかけたし,迷惑ば…

誰よりも賢くて,誰よりも誇り高くて,誰よりも怠惰で,誰よりも純粋なきみへ.きみの様子が変わってからもうずいぶんと経つものだから,そして,その間もずっと僕たちの関係は続いていたものだから,僕は最近,昔のきみを忘れそうになる.きみは昔からずっ…

ひとつのままならないたましいの,これは救済の物語だ.そのたましいは,他のあらゆるたましいと同じように,まるでなんの目的もなくこの世界に生じた.ただ他の多くのたましいたちと違ったのは,このたましいに限っては,本来たましいがそなえているはずの…

なんだかあわただしい.色んなものが一斉に動き出して,春を感じる.アスパラは美味しいし,色の濃い花は咲くし,日の出から日の入りまでの周期はずいぶん大回りになってきたし,コートが必要なタイミングも減ってきた.あとはサボっている歯医者と健康診断…

その夜,空は高々と濃紺だった.ふだんよりずっと低く大きな月があたりの星光を淡くして,月光をふくんだ薄雲を千切りながら,海風が黒々とした波を囃していた.月明るく,ごうごうと風は鳴り,渚に波頭が崩れる音もあたりにざあと響くのに,どうしてか,目…

研ぎ澄まされた感覚の,まばゆいほどの一閃を見た.素直に感心したし,なにより,そのようでありたいな,と思った.こうしてまた僕の自己実現は抽象化してゆく.そして僕は,なぜか,なんだか,いつも現象でありたがる.ひらめきであったり,嵐であったり,…

勝手に永遠だと思っていた.勝手に無限だと思っていた.僕はいつも勝手にそういう,終末のなさを思い描いては,ずっとその中に生きている.僕の世界に終わりはなくて,ただ続いていく.咲いたり枯れたりしながら死と蘇生を繰り返す花が,あるいはその根が,…

天才扱いを受ける.受けてきた.いつからかは思い出せない.昔からそうだった.天才.なんて簡単な肩書きだろう.ポジティブな感想なのだということくらいは分かる.しかしそれ以上は何も分からない.僕を天才呼ばわりする人は,僕の何を理解することを諦め…

見知らぬ土地で過ごす.離れること.しかも,遠く離れること.移動ではなく,居住すること.そんなことごとを,静岡で噛み締めている. 僕は結局のところ,都市の人だし,都市の気配の中でしか,いたるところ匿名な街並みの中でしか,きっとそれらしく生きて…

博物学ドキュメントシリーズを再読する.くだらないが面白い.くだらなさにとことん付き合うのは人間的美徳だとつくづく感じる.くだらないものにいくら付き合ってもくだらない結論しか出てこないのだけど,くだらないことに一生懸命なその姿勢そのものはほ…

誕生日だ.数年前までは誕生日のたびに暗い暗い文章を書いて,自分で読み返してげんなりしたりもしていたのだが,あまりにも不毛なのできっぱりやめた.今思えば何のためにあんなことをしていたのか見当がつかない.どうかしていたのだろうな.もっとも,僕…

アドベントカレンダーのための資料集めを始めた.資料といっても大したものじゃない.手元にあるどうも読みあぐねていた本をがさっと抱えて,パラパラと斜めに拾い読みしながらそそるテーマを漫然と探す. ひとつは,こんな作業をはじめる前から決まっていた…

アドベントカレンダーに参加してみる.実は初めてなんじゃないだろうか.自称するのも憚られるが僕は筆まめで,まあここに残った色んな書き物の痕跡からも窺えるというものだが,日々色んなものを書く.数式,プログラム,英語,日本語,その他,諸々.そん…

逃避と格闘.合理性からの逃避と合理性との格闘.僕は永遠にこれを続けていく.続いてしまうのだから仕方ない.負ける戦いを続けていくうちに,負け方も上手くなってくる.上手に負けて,また立ち上がって,さあもう一度.何度でも僕は殺害されて,何度でも…

大いなる感情.すごく大きくて強い感情.僕の暮らしそのものを包み込んで,もう抜け出し方も分からなくなってしまった.ずっと探してきたもの.ずっと前に,軽々に失って,それ以来陰日向に追い求めてきた感情.感情の獲得はこれまで虚しいものばかりだった…

顔が変わってきた.僕は自分の顔についての評価がほとんどないので,これが良い変化か悪い変化かは分からない.老いてきているのだろう.鳥も国も,人も時も,みな老いていく.そう思いながら,心臓の鼓動を,静かに味わう. 若くありたいとは思わない.きっ…

記憶の復活.それが最近の人生のテーマだ.新しいことを始めることは,僕にとってはまるでコストではない.それを思いとどまることの方がコストだ.そして,このコストはペイする.そんなことは僕が一番分かっている.だからこそ,止まること,留まることへ…

いまだに大量の文章を書いている.そのほとんどが勝手気ままに書いたものだ.強いられて書くのが嫌いで,きままに書くのが好きだ.僕は勝手気ままに出来ることは全部大好きで,強いられてすることは全部大嫌いだ.つくづく,社会ってやつに向いていないなあ…

演出されたシンプルほど腹立たしい欺瞞はない.僕はその向きのシンプルが大嫌いだ.本質的にシンプルなものがシンプルであるのは構わない.それはただ,美しいだけだからだ.しかし,インターフェイスだけやけにシンプルそうに見えて,その実,中身は散漫で…

唐突に,髪を切った.ずっと何故か切らずにいたので,とうとう切った.気持ちがいい.髪を切るたびに思うことふたつある.ひとつは先述の通りだ.気持ちがいい.もうひとつは相反するようだが,二度と髪なんて切りたくない.次に髪を切るのはいつだろう.案…

すべてを叶えたくなる.望みが聴こえる.欲望が見える.僕は感覚している.そして僕の感覚可能なすべてを叶えたくなる.エゴイズムでもいい.僕が叶うべきと思うなら,それは叶うべきことだからだ. 忘れるべきことは僕が選ぼう.漏れなく,重なりなく,ひと…

美しいものを間近でずっと眺めていると,視覚が心地よく麻痺する.心地よいといっても麻痺は麻痺なので,やはり麻痺なりの負の効用がある.というのは,美しくないものを目撃した時の反応が激しくなる.醜いものを見た時,思わずのけぞりそうになる.自分で…

とにもかくにも,また新しいことを思い付いたので,また新しいことを学ばなくてはいけない.新しいことを思いつくたびに新しいことを学んで,そんなことを何年もずっと,いや,きっと生まれてこの方ずっと延々繰り返してきた結果,自分でも何がなんだかよく…

解釈と事実.美術史を片手間に勉強していて,このあたりの切り分けが非常にあいまいなことに戸惑う.少し前,物理学に凝ってあれこれと手をつけていた頃,定義,命題,定理,証明,補題,といった基本的な意味の切り分けについて物理学書はとてもおおらかで…

また思いついてしまった.思いついてしまったら行動に移すしかない.思いついてしまったことを,行動に移さずにいられるような強靭な理性と合理性が備わっていたなら,いま,僕の人生はこんなふうになってはいない.そして,今の自分の人生を後悔こそすれ,…

主義,という訳語について.主義という訳語があまりしっくりこない場面が多い.この語が使用される場面は主に二つあって,ひとつは principle の訳語として,もう一つは -ism の訳語としてだ.かたや単純な一般名詞であり,かたや接尾辞,ということ.このへ…

なんで今更経済学か,と,聞かれたことはないけど,自分なりの考えはあって,というのは,別に経済に興味がないからだ.経済に興味がないし,なんとなれば,なるべくそんなものに興味を持ちたくもない.だから経済学を少しやっている. 経済に興味を持たない…