Entries from 2019-10-01 to 1 month

明け方の時計の音は乾燥している.夜の時計の音はベタベタとしている.昼間や夕方には時計の音が聞こえない.家にいないからだ.複数の別々な時計が織り成す,完全に規則的で,微妙に噛み合わないリズム.睡眠と覚醒のマーチ. 指先を這わせた背筋の輪郭の,…

今後,ここに書かれる,一切のことば.一切の文章.一切の物語.すべてを君という個人に捧げる.来世を仮定し,来世でまた会えたら,その時君に胸を張って,僕の人生の記録を読んでもらえるように.心臓が焦げ付くほど憧れた君に,僕の存在の断片を示すため…

何もかもを偽って何もかもを欺いて何もかもを騙して何もかもを捨て去って,そんな自暴自棄な虚無を無性に求めてしまう時があり,たとえば今日はそんな日だった.コーヒーを飲んでみたけれど,相変わらず好きになれない味だった.水たまりを見つけて,ブーツ…

無秩序に無制限にただひたすらに際限なく続いてゆく一列の灰色の隊列を思う.先頭から頭蓋骨が転げ落ちて,黒い髪の少女がそれを拾う.夢だったのかもしれない.夢にしてはずいぶん繊細だったし,もちろん現実であるわけがないし,きっと僕の脳はすこし疲れ…

純粋な後悔の記録.何不自由なく掴めたはずの幸せが,とても遠くて,悲しい.手を握ることも,視線を合わせることも,本当に何もかもが遠くて,焦点がぼやけていて,とりとめがない.地に足のついた幸福をこんなにも求めているのに,僕は相変わらず足りない…

すべてのありふれた祝福に拍手を送ろうと思った.そしてすべてのありふれた呪詛の,そのひとつひとつを,ほぐしていきたいとも思った.僕は聖者でも悪夢でもない,朝日でも真夜中でもない,つまらない人間の男のひとりに過ぎないのだけれど,そんな僕にも何…

宝石を宝石で描くようなことをする.真似事だ.僕は本質的な意味できっと記述者ではない.読む人間だし解釈する人間だ.記述する自由はあまりにも,僕にはあまりにも大きすぎる.巨大な自由を持て余して僕は腐ってゆく.そして制限された不自由な檻のなかに…

大きな声で歌を歌った.何度も同じ曲を声が枯れるまで歌い続けていた.僕はとても嬉しかった.なんだか清々しかった.後ろめたさよりも,解放感の方がずっと大きくて,その束の間の解放感に,延々と酔っていたかったのだと思う.耳の奥にわだかまったままの…

ありえないことなんてない.ありえないことなんてありえない.なんだって生じる.なんだって起こってしまう.自殺も誕生も椅子の破壊も鶏卵の落下も電球のアポトーシスもなんだって生じる.適者生存の原則なんてしょせん単なる原則にすぎないとばかりに直感…

サマルカンドの空.青に支配された街を支配する青の女王,青空.きっとサマルカンドは他のどの場所よりも晴天に意味がある場所だと思う.いつか行きたい.世界を見たい.僕はたぶん何も知らないまま,どこにも行かないまま,死んでゆくけど,この貧弱な想像…

呪いの言葉が首とか視線の周囲をくるくるとまわっている.そんな日だった.これ見よがしな恨み言に,心臓がチクチクするほど苛立ったし,なにより,苛立ちを苛立ちとして表現することの難しさに,あるいは,怒り慣れていない自分の不器用な怒り方に,とても…

なんの問題もない.なんの問題も.僕の生命は言ってみれば,出窓の重たいカーテンみたいなもので,揺れることも,開かれることもなく,ただ光を遮るだけ.どんなに酷いことを言われても,どんなに悪意に晒されても,ただ光を遮るだけで,なんの問題もない.…

小鳥の声.風.音.とてつもない光.眩しかった.白い景色の中に人影が揺れた.あれはきっと僕ではない誰かだった.水面を歩きながらあくびをすると,くちからドバドバと花弁が溢れてきて,ハラハラと水面に浮いた.水面はとてつもない光を反射して,やはり…

求めて与えられるなら苦労はなく,苦労のないまま手に入れたものも少なくなく,とはいえ,なにかを獲得するためにあれこれと本気を出してみるのもそれ自体として気持ちがよく,つまり人間なんて本気を出したいだけなんだ. 本気を出せていれば気持ちがいい.…

ふわふわした気持ちで1日を過ごした.音楽を聴いたり,人と話したり,なんだかよく分からないまま,ずっとテクストチャットをしたり,手や指や爪や,足首,血管,そういう細くて長いものをあれこれ想像したりしていた. 最近よく詩を書く.詩ではなくて単な…

人は勝手に傷つく.人は勝手に傷つける.誰かはいつだって他の誰かの刃物だ.抜身の刃でない人間など存在しない.だからこそ,人間は優しくなければいけない.すくなくとも,僕は優しい人間でありたい. 朝の空気が冷たい.風はあまりない.街を見下ろすこと…

といになる

「ねえ,ずっと考えていることがあるの」 「なに?」 「わたしたちはどんな世界に生きているのかな」 「どんな世界?」 「そう」 「抽象的だね,ずいぶん」 「きっと最初はもっと具体的だったんだけど」 「うん」 「ずっと考えているうちに,抽象的になって…

僕は本当に,自分のために数学をしているだろうか.数学は僕の自己実現だろうか.僕は本当に,自分のために詩や物語を書くだろうか.文藝は僕の自己実現だろうか.僕は本当に,自分のためにプログラムを書くだろうか.プログラミングは僕の自己実現だろうか…

脳がのんびりとしている.のんびりとしすぎて,ふだんあれこれと浮かんでくる雑多なイメージも,つんとした音楽も,鳴りを潜めて,ただ,平面的な感覚だけが,眼球の奥をうろうろと漂っている. わけもなくたくさん歩いた.身体が疲れた実感はないけれど,頭…