Entries from 2020-01-01 to 1 month

また日々は泡立って消えてゆく.大きな流れの中で、しぶきを巻き込む波もあれば、倦んだ淀みもある.僕はただ流れる.波に揺られたり,淀みにたゆたってみたり,僕の意思などそこにはない.あるのはただ,変わり続ける悲哀しい世界だけだ. もう許したり許さ…

映画を観た.とてもいい映画だった.ナチの話.ライフイズビューティフルや,縞模様のパジャマの少年.世界の興奮と狂気は少年の純情と折り合いがいい.少年は世界から脱皮しようとしていて,世界はそんな少年にお構いなく姿形を変えてゆく.少年は,自分が…

冬がなかったらどうしますか?そんな広告を見た.冬がなかったら冬がない暮らしをしながら,時々冬のある場所に出かけていったりするのだろう.そして冬のある場所で冬らしいことをするんだ.歯医者にいったり,こたつに入ったり,たくさん泣いたり,小さな…

いつも何かからの解放を祈っている.たとえば残酷な早起きや,硬いベッドや,湿気や,高圧的で攻撃的な人格否定や,追放や,彷徨や,自分自身の身勝手さや,叶わなかった夢や,生えなかった翼や,飛べなかった空.そういうものが,自分から見えなくなってく…

また,毎日毎日泣きたくなる日々が始まる.ずっと噛み締めていた漠然とした屈辱感や,それよりももっと漠然とした,輪郭のぼやけた不安や,ある種の劣等感.行きも帰りもそういうものに包まれながら暮らす日々がきっと始まる.それがとても悲しい.与えて奪…

ぬるま湯のような日だった.途切れ途切れの時間が,絶妙な緩急をつけて流れていった.大きな河の,河口付近の浅瀬を,裸で泳いでいるような感覚があった.僕は泳げないけれど,泳げる身体に生まれたら,チグリス川の河口を泳いでみたい.古代の文明の名残で…

嬉しいときもあれば,悲しい時もある.だけど世界は,僕の世界は満遍なくなんとなくいつも悲しい.それは僕が満遍なくいつも悲しがっているからなのだと思う.悪い夢だとは思わない.いつか覚めるとも思えないし,そもそも僕はいわゆる夢をあまり見ないから…

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空想のレインコートを脱ぎ捨てて冬の日向を日傘で歩く 剣よりも強きペンよりなお強き花束で隠すフリュネの裸体 破綻した蛍光色の文法を着て青年は地下街をゆく 十字架にスパイスをふって食べるとき鼻腔を抜ける三位一体 "理想"とふ語の印象の片隅にいつも聳…

空白を愛すること.時間的空白空間的空白.何もないこと.僕はまったく空白的ではなく,ごてごてと不要な情報を纏った鈍重な存在なので,空白の,nil の,圧倒的な軽やかさにいつも憧れている.こじつけっぽいかもしれないけれど,Lisp の思想に惹かれてしま…

とても感情的な文章を読んだ.短い文章だった.人生の勝ち負けを論じていた.ありふれた主張だったし,論調も穏やかだった.なのになぜ,僕はあんなにも感傷的になったのだろう. 人生に勝ちや負けなどない.人生は,人として生きていくことは,誰かや何かと…

聖書を読み返している.新約聖書だ.かつての僕は,ある種の神話集成として旧約聖書をよく読んだ.ところで,旧約聖書という言い回しがいかにもキリスト教めいていて気に食わない.もっと直接,ユダヤ聖書とでも言うべきだと個人的には思う. と,まあ,その…

整然とした仕事をすると,漠然とした余暇を過ごしたくなる.逆もまた然り.秩序と混沌を両腕に載せた天秤は,僕の中で絶妙なシーソーゲームを繰り返す.たぶん永遠に. 牧歌的な夢を見た気がするが,牧歌的であったという印象だけが残って,内容をまったく思…

これは自由筆記だ.自動筆記でもある.今僕はちょうどよく眠くて,頭が働いておらず,特に言いたいこともなければ,今日に関して書くべきことも起こらず,徹底的に無為な時間をだらだらと過ごしたので,それをそのまま文章に起こしたようなものを,せめて日…

自由落下のような眠り. その眠りは突然で,不可避.事故の一種かもしれない.もっとも安全で,もっとも穏やかな事故.フィルムが尽きた映像の暗転や,停電直後の部屋……真冬の日没のような眠り. 僕はそれをとても美しいものとして観測する.眺めている.声…

つぶさに観察していれば,いつか,答えと呼べそうな,正しい形容にたどり着けるのだろうか.僕は人間を理解することを,ある時期からほぼ完全に諦めていて,もちろん,僕自身も紛れもない人間なので,自分自身を理解することも諦めているのだけど,それでも…

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孤獨とふ字もてかたどる心象は 奈辺にありや 蜀のいずこか 外宇宙から重力波 迫り来て 冬至の柚子の香ぞ浚ひゆく 銀の匙 小舟 三日月 カナン文字 背の弓なりに載せるメタファー 咳ではない 薬漬けした気管支に 老ゐた獣を飼つてゐるのだ 50色入りだった色鉛…