Entries from 2018-12-01 to 1 month

季節は音もなく変わる.すっかり真冬だ.外出のたび,もうマフラーがないと厳しいな,と思いつつ,何処にしまったのかを忘れたまま,気付いたら春になる.ここ数年は毎年そうだ.そのせいで余計にマフラーをしまった場所を思い出せなくなっていく.なんて無…

丁寧に,大切にすること.敬意とは,ある対象(多くは人)のために自分ができることを真剣に考えること,そしてそうした考えに基づいて奉仕を実行することだ.奉仕に通じない敬意を,僕はそれと認めたくない. 基本的に,人間を主体とする関係性の破綻は,敬意…

繋いでいた手はほどけてしまう.絡まっていた指は,もつれて,はなれる.言葉は睫毛のすきまからこぼれてゆく.もう夜はなにも溶かさない.涙は涙のまま首すじを伝って,デコルテに消える.あの涙は化粧品の匂いを吸い込んで,きっと舐めたら苦い.たぶん香…

巨大な感情との接触.人間存在の内面性を理性と感情とに分割したのは,どうせ哲学者なのだろうが,まったく余計なことをしてくれる.そんなふうに分割するから,人間は感情を理性でいなそうとするし,理性に感情で色付けしようとする.個人は文字通りin-divi…

天使の休暇

少女と天使に関するとりとめのない印象. まず,印象の空間に,一人の少女を仮定しよう.少女は小柄で,華奢で,色が白い.まあ,可憐と言って差し支えない.小柄なこと,華奢なこと,色が白いこと,そして,可憐と言って差し支えないことは,少女の年齢には…

音楽が鳴り止まない.1人の時間を持て余してずっと音楽を聴いている.ラフマニノフのピアノ協奏曲3番.ワイセンベルクの演奏は透明な鋼のよう.ラヴェルのピアノ協奏曲.アルゲリッチの指先は所々弾き飛ばしつつあくまでも流麗.酩酊した脳髄に染み込んでく…

脳の呂律がまわらない.酒を飲みすぎて理性が窒息した.特定の日付に深い意味付けをするのは趣味ではないけれど,迎合するかどうかは置いておいて,ともかくこの時期というか,この日に関しては,世界が,世間が発する濃厚な雰囲気が,冬の空気と混じって否…

時間は流れない.時間というのは,僕にとって,流れるようなものじゃない.いま,たとえどれだけ多くの人が"流れる時"を受け入れていようと,それは僕にとって単なるナンセンスだ.アナロジーの条件を満たしていない,無意味な表現.あるいは,極端に感覚と…

愛書家を信じない.個々人の感性はひとまず置いて,いわゆる愛書家と一括りに出来るような人々の,審美眼や感受性は正直かなり怪しいと思っている.というのは,愛書家は書物を否定する語彙を持たないからだ.愛書家は礼賛する.愛書家は推薦する.なるほど…

心の端に火をつける.焚きつける.いくらでも言い訳は用意できてしまう.いくらでも後悔の種は拾える.いくらでも逃避の芽は萌える.それでも立ち向かわないと,戦わないといけない.足掻いたり,抵抗したりしないといけない.諦められない.諦めるためには…

かくも穏やかな暗黒.本当は闇,という言葉を使いたかった.だけど,闇は意味を背負い過ぎているから,ただ暗いこと,光が少ないことだけを,言葉として切り取るのには不向きだ.だから代わりに暗黒という語彙を使ってみたけれど,あまり成功しているように…

漠然とした印象に呑まれる.まだ眠るたびに夢を見ていた頃の記憶.咳をするたびに割れたガラスで口の中を切る夢.モンティパイソンの世界をさまよう夢.滝に手を突っ込んで何かを掴もうとする夢.あとは黄色いシャツを着た母が,芝生の向こうで手招いている…

日曜日という空白.時間はふわふわとただよった.寝ながら読んでいた本を閉じると,当たり前に,そこには低い天井がある.壁と同じ,白くざらついたクロスを貼った天井の,その白さを不気味に思って,僕は身体ごと目を逸らした.寝返りと言えなくもない.ご…

星のことばかり話している.きのうは流星群について話した.きょう話したのは恒星の重力収縮と原子核融合のこと.数年越しにやっと読み終えた短編集は『月の部屋で会いましょう』だし,月初に会った友人とはホルストのThe Planetsを肴に飲んだ.そういえば,…

光の扉がひらいた夜だった.いくつもひらいた夜だった.空に張った黒い天鵞絨の天幕が,うすらかに,すっと,ひとすじ裂けて,その裂け目から,天上の光が,かすかに漏れ,またすぐに,ふっと閉じる.冬の舗道に立って僕は,今夜,それを3度見た. いにしえ…

花瓶を撃つ.花瓶は複数ある.形や大きさはバラバラだけど,どれも水が入っている.花はあってもいいし,なくてもいい.大切なのはそれが花瓶であることで,花を生けた瓶であることじゃない.とにかく,そんな花瓶をいくつか並べる.真横に一直線.ズラリ.…

いびつな世界に生きている.世界のいびつさは,何の価値も背負わない.いびつなことは良いことでもないし,悪いことでもない.ただ,世界がいびつだ,という事実だけがある.pathological な世界だけがある.非線形で,離散的で,いたるところ非連続で,いた…

祈り方を知らない.僕には信仰がない.僕には神がいない.何を神と呼ぶかは人それぞれだろうけど,誰が何を神と呼んだところで,いずれにせよ,それは僕の祈りの宛先にはならない.人に祈った記憶もない.物に祈ったこともない.僕の右手は十字を切らない.…

冷めたスープを飲んだ.それが冷たいことよりも,それにまだ味があるということが意外に感じられた.冷たくてサラサラしたものは,やがてぜんぶ純粋な水へと近づいていく直観.時間が経てばあらゆるものは混ざり,不純になって,腐敗して,やがて十分に分解…

ベッドルームは綺麗な長方形をしている.片側の壁紙は紺色に張り替えてある.その紺色の壁に掛けたカレンダーは事実上のポスターで,まだ一度もめくったことがない.きっと今後もめくらない.来年になっても再来年になっても,このまま掛けておく.つまりそ…

ここは日記にする.理由は,タイトルを考えるのが面倒だからだ.名前を付けるのが好きで,つい,きっと,凝ってしまう.凝ってしまうと,時間を浪費してしまう.時間の浪費は体力の浪費でもある.だから本文の体裁は日記ということにして,タイトルは日付の…