Entries from 2020-03-01 to 1 month

結局,ずっと話していた.肺の違和感を引きずって歩いた.青空を,満開を控えた桜の花がまばらに遮っていた.もう冬は終わってしまって,春になって,僕はまたひとつ,形式的に時間を重ねる.積もり積もった時間の長さに手先がふるえる.無力感に膝が割れそ…

脳がいささか暴走気味で,多動に拍車をかけていた.発散されるべきエネルギーは,キーンと高い音を立てて一点に絞られ,焼けつき,焦した.その結果,一粒の涙が流れたことを,僕はきっと忘れてはいけない.過剰はいつも傷つける.それが自分が他人か,人か…

さらさらとしたスープ.とろっとしたスープ.つまり,そんな日々だった.僕のスープはさらさらとしていて,生ぬるく冷めていた.それをスプーンでただかき混ぜる日々だった.ながいこと,それを口にすることはなかった.口にできなかった.飲み込むのが怖か…

「まったく,いやになるね」 「ほんとだよ」 「なにが?」 「ん?」 「きみは僕が何について,"まったくいや"になっているのか,分かって返事をしたのか?」 「そんなわけないだろう」 「そんなわけないよな」 「だってきみはまだなにも具体的な話をしていな…

一枚の写真をずっと眺めていた.何か意味があるものが写っていると信じて,くまなく写真の中を探した.浮ついた感情以外,なにも写っていなかった.少なくとも,今の僕にとってその写真は,なんの意味ももっていなかった.それなのに,そのはずなのに,目が…

あっという間に時間は過ぎていく.僕は変わっていく.変わっていって欲しくなかった多くのもの.変わって欲しかった多くのもの.大好きだったもの.許せなかったもの.どちらもたくさんある.記憶ばかり溢れてくる.最後,祝福で終えられなかったことを今更…

大きな変化に対して,そして,その変化に対する準備が,心身共に不十分であった時,できることはなんだろう.変わっていく自分を受け入れる準備が整う前に自分が変わってしまった時,出来ることはなんだろう.主体的に,なにか出来るのだろうか.何かできる…

昔僕は緑色がやけに好きだった.好きな色,というのが明確に存在し,それは緑だった.なぜ緑色が好きだったのだろう.なぜ緑色が好きだと思い込もうとしたのだろう.何かきっと僕にとって大切なものが緑色だったのだろう.僕はシンプルな人間だったのだ,か…

石を吸う

「あ,カモメ」 彼がそう言って指差した先.青空の中,真っ白な鳥が数羽,夏の海風を受けて踊っていた. 「カモメ……ですね」 そう返事したわたしは,空も鳥も見ていなかった.すっと夏の空に突き刺さった,彼の細いひとさし指をだけ,見ていた. 彼は空の青…

助けを待っている. 暗い場所.トンネルなのか,とにかく,陽の当たらない細長い,管の中を,同じ方向にずっと歩き続けている.誰かに会えるのを待ちながら歩いている. 助けてほしい.終わらせてほしい.僕は疲れ切っている.まだ疲れていなかった頃の自分…