Entries from 2019-09-01 to 1 month

空気は浮き足立った.日差しからは冷めた匂いがした.景色の緑が少しずつ退色してゆく.冬へと向かう気配が,視界から夏の歓喜を漂白してゆく.これからしばらく,世界は寒気の透明へと向かって滑り落ちてゆく. この国の人々は,このつかの間の時間をこぞっ…

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虚空捻り 旋律の糸を紡ぎ出す 笛吹きのまばたきのしづけさ 雨の夜の都会のマンホールを想へ ああいふものを退屈とよぶ ここを吹く風が一番好きなの と目を瞑る祖母 水羊羹 秋 彼の吸う細いタバコのフィルターをあぶる 虹が出る 美しい おもひでの反対側へ寝…

海の見える丘にのぼって,剥き出しの人生を眺めてみようとしたけれど,いわゆる人生に剥き出しの状態などなく,強いてあるとすればそれはもはや人生とは呼べない,単なる生存と言うべきもので,つまり,潮風の凪いだあの丘からは,波より他はなにも見えなか…

ボーッと眠らない夜が結構好きだ.なんだか途中からいつも楽しくなってきて,うきうきしながらボーッとする.ボーッとしていると色々な思考の断片が,断片のまま浮かんだり消えたりするのだけど,その多くは不安や不満に似たもので,幸福な人生というのは,…

何も知らなければよかったな、と,思うことは多い.知ってしまうと,知らなかった頃には戻れない.きっと知ることは,幸福でも不幸でも,良いことでも悪いことでもなくて,ただ,受け入れられる世界の有り様をちょっとだけ減らす,その原因になっているだけ…

風の肖像

率直に言って、わたしは困っていた。まだ抱えている仕事が何件も残っていたし、男爵令嬢の肖像などはほとんど描き上がってもう仕上げの段階だ。それを急に窓辺の隙間から押し掛けてきたかと思えば、寝耳のすぐそばで騒ぎ立てて、何かと思って飛び起きたが運…

眠れない夜に出かける.真っ青な夜空にどっぷり浸かって,オレンジ色の月がびちゃびちゃに濡れている.空って大きいな.こんなに大きいと,自分以外の色々なものの小ささが,寂しくて寂しくて,泣きたくなったりしないのだろうか.泣きたい時は泣いてもいい…

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"昨日から宇宙の様子がおかしい" と言う Lisp しか信じない人 "明後日の方ってどっち? あっち?" "いや,そっちはたぶん この世の終わり" 教科書のピカソを千切り終へ 犬は太平洋のやうな眼をする 完全な球にはきっとなれぬから 枯れた bouquet に香水をふ…

創作じみたことをして,すこしアイデンティティが豊かになった.工作じみたことをやると脳がすこし器用になる.数学じみたことをやると,精神がすこし安定する. 抽象というのは理解のための手段で,人間はしばしば抽象の手筈をあやまり,いたずらに難解な,…

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口づけたまぶたに響け モォツァルト その昏きまどろみの奥まで 金木犀 きみは彼岸にかへりしか 立つやおそきと さやきむらさめ 夏落つる 痣の花咲く片膝をいだきて眠る少年のごと 教員は巨大なシメジとなりにけり 曰く"この先生きのこるには" うつすらと妹の…

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月を濾し 星を漉きたる 純粋の 夜に蜂蜜を塗つて喰ふのだ 窓際にひかりをふくむ白髪と ちひさき背 日向 小鳥 杖 記憶 たましひにすくひあれかしとばかりに 楡の木陰に蝉出づる午後 風鈴を破る 破る 叩きつけて破る 破る 泣きながら 笑いながら破る 眼科医の…

頭が重い.ときどき押し寄せてくる,言葉にしたくならない類の不安の波に,今日は足元をすくわれがちだった.なんとか,それに飲み込まれるようなことはなかったけれど,それでも,否定し難い息苦しさがあった.眠ったらよくなるかな,と思って,ちょっと無…

むさぼるみたいに音楽ばかり聴いている.こんなに音楽ばかり聴くのはなん年ぶりくらいだろう.あとひとつきもこんな状態が続いたら,ひとひとりが生きる一生ぶん,音楽を聴きつくしてしまいそうだ.BGMとかいう生易しい聴き方ではなくて,没入してしまう.集…

やるべきことを一つやった.数えていないけれど,きっとまだある、やるべきことごと.すこしずつ僕からこぼれ落ちて,弾けて消えろ.また,明日がはじまる. 服を買わなきゃ.なんだか,引っ越しなら模様替えなりのたびに,靴や服がなくなる.おかしいとは思…

もがいていた.やりたいことができなくて,やらなくていいことと,やらなきゃいけないことに挟まれて,ジタバタしていたら,1日が過ぎてしまいそうだった.僕は焦って本屋にいって,気になっていた哲学の入門書を一冊買った. 哲学入門というスッキリしたタ…

もう失わないために,ひとつひとつ積み上げていこうとおもった.失わないためにできることは,そんなに多くないのだけど,そんなに多くないからこそ,ちゃんとがんばれる気がした. 大きく手を振った.背伸びもした.つま先が痛くなるまで,ずっと背伸びして…

水面の下にちぎれた紙切れがふよふよとただよっていた.そのうちひとつをつまみあげて,指先でもてあそんで,そのうち乾いてきて,つまらなくなったから,捨てた. 人生って短い.今度の9月は長い.9月が終わる頃には僕の人生は終わっていそう.そのくらいな…

散らかったソースコード.せっかく綺麗にしてあげようとしているのに,なかなか綺麗にならなくて,ちょっとイライラした.設計って難しい.いつまでたっても納得がいかない.過剰品質を自覚した上でなんとなく突き詰めてしまう.でも,言葉なんて,丁寧に使…

気持ちを整えるために,またこうして日記を付けはじめた.1日を無理やり振り返ると,どの日にもかすかな個性があって,そのかすかな個性の源泉は,僕の認知の具合であって,つまり,何事も気構え次第ということ.そして,何事も気構え次第だと,ちゃんと認識…

珍しいものがみたい.砂漠に立ちたい.もうほとんど見かけなくなった,大好きな炭酸水が飲みたい.整えたい.夢を見たい.本を買いたい.楽器を鳴らしたい.おおきな声で歌いたい.世界を説明する力が欲しい.詩や小説が書きたい.美味しいものが食べたい.…

晴れた.すぐに台風が来るらしい.台風が好きな友人のことを思い出す.彼はいわゆる気象オタクで,まあ,'いわゆる' という前置きがここでどの程度意味をなすのかは置いておいて,とにかく,当時史上最年少で気象予報士を取り,今も気象予報士として働きなが…

不意に,過去が吹き上がった.かつて好きだった人たちが,かつて好きだった人たちのまま,僕の世界に舞い戻ってきて,景色はまた彩りを取り戻した.喜びで指がふるえた.次,みんなに会ったら,ちゃんとありがとうを伝える.僕はまだ悲哀に打ちひしがれてば…

夜,深夜,ぼんやりとしていた.あかりをつけたまましばらく仰向けになっていたから,とてもまぶしかった.しかし,いかんせんぼんやりとしていたもので,わざわざ立ち上がってあかりを消しにいくという発想もなく,いや,発想はあったのだが,実行にうつす…

薄いガラスで指を切った.切れたのは,左手の人差し指の先だった.ギターがしばらく弾けなくなった.しばらく弾いていないギターを,弾いてみたくなってしまった. 勇敢なものは勇者だろうか.勇敢と蛮勇を隔てるものはあるのか.それを振るう者の善性,もっ…

ここに何かを残してゆく.自分が自分であったことの記録.記憶.使い果たしてしまった感情の面影を追いかける.その時,その経験で,僕は何を感じたのか.それを言葉にしようとしたのか.それを言葉にしたのか.言葉になったのか.ちゃんと言葉になっている…

「誓います」 「では,誓いのキスを」 花嫁の顔を覆うヴェールに花婿の指が優しくかかる.ゆっくりとヴェールがたくし上げられる.その下には花嫁の美しい顔.を覆うヴェールがある.花婿の指が優しくヴェールをたくし上げる.花嫁の顔にはヴェールがかかっ…

取り零しを,取り戻すための旅.淡々と,落ち穂拾い.かつての自分がこぼしてしまったもの.かつての自分からあふれてしまったもの.知っていたのに,知らなかったふりをして失ってしまったもの.そんなものを、少しずつ,拾ってゆく.いわば過去の自分を組…

夏.今年は花火を見なかった.今年は浴衣を着なかった.今年は旅に出なかった.今年は夢を見なかった.だけど,今年も生き残った.たくさん失ったけど,かわりに,幸せな瞬間もたくさんあった.なんとなく帳尻が合っている気がする.今年も,暑くて青くてあ…