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月を濾し 星を漉きたる 純粋の 夜に蜂蜜を塗つて喰ふのだ

窓際にひかりをふくむ白髪と ちひさき背 日向 小鳥 杖 記憶

たましひにすくひあれかしとばかりに 楡の木陰に蝉出づる午後

風鈴を破る 破る 叩きつけて破る 破る 泣きながら 笑いながら破る

眼科医の指に絆創膏を貼る 玉階怨くちづさみつつ 春

幾何学の朝 藍色の海 螺旋 沈みゆく隻足の踊り子

紙風船 かの日の船に置き去りし 母の日傘の翳り思はるる

似たようなものだ 何もかも きみの息吹の青さと比べれば どれも

熱帯低気圧の五字に 虹色の 鸚鵡の猛き羽ばたきを見ゆ

瞑想と呼吸 収斂する円の印象 されど金星は嵐