素描

月光がにわかに照らした.断崖から吹く海風が木々の間を縫って,這うように森に染み込んだ.冬の終わりの枯れきった森は,今夜もきびしく沈黙している.天空.高々と,眩ゆく白い月から,少し離れて,まばらに星が散る.夜空は匂うほどの深い藍色で,夜の海もまたそれに呼応するように深々とした藍色をたたえていた.横一線,仄かにかぐろく滲むのはかつて白昼の水平線である.いまやその輪郭は破線として絶え絶えに,空とも海ともない,糸のように細い異空間として横たわっている.