花瓶を撃つ.花瓶は複数ある.形や大きさはバラバラだけど,どれも水が入っている.花はあってもいいし,なくてもいい.大切なのはそれが花瓶であることで,花を生けた瓶であることじゃない.とにかく,そんな花瓶をいくつか並べる.真横に一直線.ズラリ.行儀良く並べてあれば,場所はどこでもいい.出窓の奥,飛行機の主翼の上,鯨の背骨の上,ダイニングテーブルの縁,まあ,思いついたところでいい.横一線に並べた花瓶を,左から順に射撃する.使うのは拳銃がいい.拳に銃という攻撃的な字面もいいし,けん-じゅう,という,なんとなく効果音のような響きも好きだからだ.さて,そんな拳銃を構える.片目をつむる.焦点を絞る.花瓶の中心,狙いを定める.息を止めて,カチッ,引き金を引く.ぱあん.すかさずもう一発.ぱあん.立て続けに,もうあと数発,ぱあんぱあん.何発か当たって,何発か外す.がきん,がきん.弾丸が,当たった花瓶は割れて砕ける.破片がキラキラ宙に舞って,散乱する水飛沫が,飛び込んできた弾丸を冷やす.直後,ズシンと,銃身からの反動を受けた手首に,鈍い感覚がある.痛みかもしれない.ただ,痛いかどうかは,実際に撃っているわけではないからわからない.要するに僕は,立て込んだ仕事をいっぺんに片付けようとするとき,時々こんなことを考える.