季節は音もなく変わる.すっかり真冬だ.外出のたび,もうマフラーがないと厳しいな,と思いつつ,何処にしまったのかを忘れたまま,気付いたら春になる.ここ数年は毎年そうだ.そのせいで余計にマフラーをしまった場所を思い出せなくなっていく.なんて無意味な惰性.とにかく,マフラーがあってもなくても風は冷たいし,街路樹は貧相な骨格をあらわにして黙りこくっている.吐く息は白い.冷えた耳に街の雑踏がキンキンと響く.まだ世界は凍らない.年末の東京は,雪にも,氷にも,もうあと少し.

先日京都の友人と会食をして,お土産にとフルーツゼリーをもらった.せっかくなら東京にないものを,とあれこれ探してくれたようで,その配慮が嬉しかった.化粧箱を開けると,透明なゼリーに大きく切った果物が包まれている.血よりも紅い苺.熟れてこぼれそうなメロン,砂漠の夕日みたいなオレンジ.蓋をめくって,銀のスプーンを丁寧に這わせる.ぱくり.むむ.これは.一口食べて,驚く.しゅわしゅわ.どうやら果物の中に炭酸ガスが注入されているらしい.しゅわしゅわ.面白いし,美味しい.結構なものを頂いてしまった.

フルーツゼリーを食べながら,果物の色彩にブルーがないことを寂しく思う.赤,オレンジ,緑,黄色.どれもどこか暖かい色で,甘やかな味覚との調和も取れているが,どうも画一的でつまらない.凍りつくような,真っ青な果実,この世界のどこかにあるのだろうか.もしあるのなら,それは種が少なくて,少し苦いものであってほしい.哲学の実と呼ぼう.