胸に手を当てる.呼吸をする.骨が広がって,肺が膨らんで,肩がキュッと引き締まる.力を抜くと,気管支から息が漏れて,肺は萎縮する.吸って,吐く.また吸って,また吐く.こんなことを,僕はずっと繰り返している.ずっとずっと,飽きずに,弛まずに,繰り返している.胸に当てた手のひらには鼓動を感じる.この鼓動を感じているのが,手のひらなのか,胸なのか,両方なのか,わからない.肺に空気を満たした僕と,空っぽの肺で脱力する僕は,どちらが本物なのだろう.わからない.じゃあ本物ってなんだろう.わかりそうで,これもわからない.この世界は,宇宙は,わからないことばかりで,だから少しでもわかりたいと思う.

本を読み返していた.ここ十数日,昔読んだ本をよく読み返す.参考書の要領で,本当に内容をものにするためには,きっとどんな本だって何度も何度も読まなきゃいけない.読み返すために購入し,読み返す日のために蔵書している.借りれば足りるような読書にお金をかけるのは,あらゆるコストの無駄遣いだ.その観点から見積もるに,僕の蔵書量はもうとっくに限界を超えている.こんなにたくさんの本を何度も通読していたらそれだけで人生が終わってしまう.幸い,ある程度の精度で内容が記憶に残っているものや,なんらかの形でメモなどの読書ログが保存されているものもかなりあるので,それらは一旦脇に置くとしても,ほぼまったく内容を覚えていないもの,すでに"印象の塊"でしかないものも当然,たくさんある.今後,僕はしばらくの間,読書人としての人生を,こうしたレフトオーバーの処理に充てることにした.一通り片付いたら,また乱読期が到来するのかもしれないけど,それはきっと何年も先のことだろう.