批評の暴走は続く.なぜ批評家というのは,研究者のような顔をしたがるのだろう.批評と研究は似てもいないし,きちんと異なっている.批評に理論はないが,学問には理論が必要だ.ここで理論という言葉は,その定義から,単なる体系とは区別される.理論とは自明な系から非自明な系を導出するような知識のことだ.一方で体系は,ある程度いい性質を持つ対象同士の関係についての知識を言い,それ自体が何かを導出することはない.批評はなにも導出しないし,するべきではない.言及先として特定の対象が存在し,かつ,その対象について一つ以上の有意味な主張が存在すれば,それで批評は成立する.ここでいう"主張"とは特定の体系の中で自明に補強されるべきもので,非自明であってはならない.そもそも,批評における主張とは"感想"の部分なのだから,(科学的)学問における主張とはかなり相性が悪いように思える.おそらく,そんなことは批評家が一番よく分かっている.そのはずなのに,なぜ彼や彼女は研究者のような顔で何かを批評するのか.分からない.