断続的なイメージ.言葉にしなくちゃ分からないもの.分からないから言葉にならないもの.言葉にしなくても分かっているもの.分かっているから言葉にしないもの,出来ないもの,こと.ありふれた出来事.目眩がする.ありきたりな目眩.

アティヤの最後の論文は去年.物理学における微細構造定数が数学的に導入されたという話だった.眉唾ながらに,数学的な宇宙を少しだけ夢みた.数学がこの宇宙に課した制限,電磁気学的な力を司る定数の背後にある数学,神が数学者であること……色々な夢が右から左へ駆け巡って,消えていった.消えていったのだから,あれは夢だった.だとしたら,あの夢の正体はなんだったんだ.もしかしたら,生まれて死ぬまでの,数十年,一瞬の明滅,その瞬間ごと,わずかでも,ほんの少しでも,数学的な存在でいたかったのかもしれない.きっと,そうであって欲しかった.僕も,宇宙も.

明け方の時計の音は乾燥している.夜の時計の音はベタベタとしている.昼間や夕方には時計の音が聞こえない.家にいないからだ.複数の別々な時計が織り成す,完全に規則的で,微妙に噛み合わないリズム.睡眠と覚醒のマーチ.