晴れた.すぐに台風が来るらしい.台風が好きな友人のことを思い出す.彼はいわゆる気象オタクで,まあ,'いわゆる' という前置きがここでどの程度意味をなすのかは置いておいて,とにかく,当時史上最年少で気象予報士を取り,今も気象予報士として働きながら,何だか色々国家資格を取り,最近は法曹界に足を踏み入れている.変わっているし,心根は邪悪だが,興味深い人間だ.

そんな彼に言わせると,台風はかわいいという.健気だという.なるほど,と,彼の熱っぽい話を聞くと,その気持ちもわからないでもない.台風はそもそも非常に職人気質な気象現象で,周辺の気象的な歪みを吸収し,調停し,その役割を終えたら跡形もなく消える.しかも自分から消える.もちろん,台風は有史以来,人間にしてみればまぎれもない災害だ.彼は特に,その側面を否定しない.

ただ,と彼は言う.例えば銃が殺生のための道具であることは疑いない事実だが,そこにロマンを見出す人の気持ちは否定されるべきでないと.もっともな主張だと思う.

この世界,広く豊かな世界には,銃器に夢を見る人がいて,台風を愛でる人がいて,庭園に恋をする人がいて,紅茶と牛乳をカップに注ぐ順序に関して殴り合いをする人々がいる.さまざまな系,さまざまな事実,そしてさまざまな正義と邪悪が入り混じり,やがて熱的な死を迎えて薄い光のスープに成り果てる悠久の宇宙の辺境で,禁煙にまた失敗した僕がいる.