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虚空捻り 旋律の糸を紡ぎ出す 笛吹きのまばたきのしづけさ

雨の夜の都会のマンホールを想へ ああいふものを退屈とよぶ

ここを吹く風が一番好きなの と目を瞑る祖母 水羊羹 秋

彼の吸う細いタバコのフィルターをあぶる 虹が出る 美しい

おもひでの反対側へ寝返へれば きみは手と声だけになりぬる

砲弾を 払う南米の風熾り 刹那 瞳に宿る流星

白々と眠る背に透明な字で 我は結句を数へておれり

記憶から沈黙の唾液したたりて 濡らすのだ 枯れた詩人の筆を