口紅を塗ること.中心から右へ,あるいは左へ,まあ左右盲の僕からしたらどちらでもいいのだけど,とにかくどちらか片方へ向けて,可能な限り滑らかに擦り付ける.色素が薄い皮膚に付着する.続けて,先ほどとは反対の方向へ,同じ動きを施す.すると口紅は口紅なりの効果を発揮し,人間の顔を少し,あるいは劇的に美しくしたりする.化粧という儀式に対する憧れが,このところ,やけに募る.結果ではなく過程に対するこの憧れに僕はなんだか見覚えがあって,それが絵画に対する憧れと同型であることに気が付いてからは,絵画への憧れがまたふつふつと湧き上がってくるのを感じている.