真夜中.記憶に形を与えてゆく.

ガーデニアの匂いは,昔,夏,祖父の花壇の前に立ち尽くした時と同じ匂いがした.もう跡形もなくなくなってしまったあの花壇について,母がどうしようもなく悔しそうに言っていた恨み言を思い出す.

「綺麗にしていたのに,除草剤なんて」

当たり前だけど,当たり前だったものは,失って初めて気がつく.ほとんど,当たり前という言葉の定義通りなのだけど,そんな現象に立ち会うたび、僕は毎回新鮮に驚いている.

あの花壇もそうだった.庭の一角を占めて,当たり前のように季節ごとの花が咲いていた.背の低いひまわり.お手本のような色合いのチューリップ.山百合.土が見えなくなるほどに茂った蔦と,罠みたいに絡まった雑種のバラ.今思えば雑然としていたけれど,失って気がついた.僕はおじいちゃんの花壇がとても好きだった.

おじいちゃんのことも,とても好きだった.