美しいものを間近でずっと眺めていると,視覚が心地よく麻痺する.心地よいといっても麻痺は麻痺なので,やはり麻痺なりの負の効用がある.というのは,美しくないものを目撃した時の反応が激しくなる.醜いものを見た時,思わずのけぞりそうになる.自分でも,そんな大袈裟な,と思ってしまうほど,醜さに対する抵抗力が低下する.一方,この視界をより美しくするためにしか頑張れないこともある.そういう目標がないと積めない研鑽があり,その研鑽はたしかに僕を強くしている.美は人を強くも弱くもする.それぞれ異なった領域で,美は僕の糧であり,また同時に危機でもある.

他者と過去についての覚え書き.知っていた人がどんどん知らない人になっていくこと.空想の部屋.見知らぬ行為.野蛮さ.後悔.残滓.洗礼とルネサンス.再会や再開.止まった時間の中で動き続けていたもの.