空が高い.夜空のくせにやけに澄み渡って,星がパラパラ降ってきそうだ.月を探す.グレープフルーツジュースを飲む.タバコを吸う.昔,これと同じ色をした空を見た.その時,僕は誰かと手を繋いでいて,その手はひんやりと冷たかった.冷たかった,ということは,あれは父の手なんだと思う.母の手はいつも,僕の手よりひとまわり温かかった.

 

"夢みたい"と言われて,ビクッと全身が緊張した.一瞬,頭の中から思考が吹き飛んで,大好きだった人たちの,泣きそうな顔や,ふるえた声が,記憶の底から舞い上がった.記憶の逆襲に狼狽えている自分の,その狼狽えぶりに狼狽えた."夢みたいだった"って言葉のあとには,だいたい味気ないお別ればっかり待っている.いつもそうだ.お別れの手前では,誰も彼も揃いも揃って,夢って言葉を口にする.

 

聞くところ,夢から醒めるってことは,どうやら,なんだか,悲哀しいことらしい.寂しいし,ちょっと怖いことでもあるらしい.でも,そんなの一瞬じゃないか.夢だなんて,そんな言い方,ずるいなぁ,と思う.夢.夢は当たり前に醒めるし,夢は当たり前に忘れる.夢の余韻なんて,朝食までには跡形もない.トーストが焼ける頃には,夢の匂いなんてどこにも残ってない.僕とのあれこれを,まとめて夢だなんて言われちゃったら,僕はどこにも居られなくなっちゃう.みんなにとっては夢かもしれないけど,僕にとってはぜんぶ,かけがえのない現実だったのに.ずるい.