自由落下のような眠り.

その眠りは突然で,不可避.事故の一種かもしれない.もっとも安全で,もっとも穏やかな事故.フィルムが尽きた映像の暗転や,停電直後の部屋……真冬の日没のような眠り.

僕はそれをとても美しいものとして観測する.眺めている.声が遠くなり,顕わな意識が薄まりゆき,思考が胡乱になり,呼吸が静まる.

それは,かつて北の大地でみた,凪いだ真夜中のみづうみに似ている.なにかに怯えながら立ち尽くした湖畔の景色が脳裏を埋め尽くす.あの夜は,月だけが明るかった.鏡のような湖面が夜空を精密に複製して,ふたつの夜に挟まれたみづうみの上の空間は,物音一つない完璧な静寂だった.

寝顔と言ってしまうにはあまりにも総合的な,眠りという一連の現象.呼吸音をもってしてなおいっそう静かな,とても静かな現象.まるで存在の余韻.月の光を当てたくなった.