短い緑道を歩きながら,蝉時雨が痛い程だった.雲間からさす光の条を.雨上がりの風が揺らした.缶の紅茶を飲んで,歩きながらタバコを吸った.少し疲れていた.昨日も,あまり眠らなかった.そんな寝不足の頭の中で,セミの声と,草いきれと,義務と責任が,じゅわぁと滲んだ.このあいだ始まったばかりの夏が,なんだか,もう終わろうとしている.ビルが切る四角い空には,分厚い雲が膨れていて,それでなくても曖昧な空模様を,よけいにぼんやりさせていた.昼下がり,水っぽい頭で僕は,昼食のメニューをあれこれ考えたり,考えるのをやめたりしながら,昼休みを持て余して無意味に緑道を往復した.

それから,抽象的に仕事をした.本来,僕の仕事はとても論理的で,整然たる順序を持った具体的なもので,その意味で,抽象的に仕事をするのははっきりと悪いことだ.そう,今日の僕は,労働力としてはまったくお粗末で,そのせいか,脳も体も炭水化物を求めず,あれこれ悩んだ挙句の昼食は,炭酸水と,ゼリーだけだった.

もしかしたら今日の僕の昼食は,世界で一番透明な昼食だったかもしれない.そういえば,ゼリーに付いてきた小さなプラスチックスプーンも,安っぽく透き通っていた.