置いてきてしまったもの.失くしてしまったもの.振り返るたびに視界をかすめる景色.沈黙のたびに聞こえてくるメロディ.言葉にしようとして,ならなかったもの.言葉にしまいとして,こぼれてしまった言葉の欠片.よく転んだ頃,夢と呼んでいたもの.あまり転ばなくなってからも,まだ夢の形をしているもの.さっき,昔よく着た服を捨てようとして,そんなことごとを思い出していた.

草原のイメージ.なぜか,脳裏にこびりついていて,時々現れる.不必要に広大な草原.たぶん僕は,生まれてから一度も,草原というものを見たことがない.フィクションの中で触れる草原のイメージは,いつも非常に単調な景色で,そこには空の青と,草の緑,風が揺らす水平線しかない.一度見てみたい.草原.イメージとの同調.