取り零しを,取り戻すための旅.淡々と,落ち穂拾い.かつての自分がこぼしてしまったもの.かつての自分からあふれてしまったもの.知っていたのに,知らなかったふりをして失ってしまったもの.そんなものを、少しずつ,拾ってゆく.いわば過去の自分を組み伏せるための,ゆっくりとした旅.自分の記憶を伴侶にした,きっととてもとても長い旅.昔ヨーロッパで,その旅路を,旅程そのものを小説として作品化した作家がいた.もちろん僕の記憶は作品になんてならない.僕はそんなに大それた企てはしない.第一,個人的には,プルーストのあれが,成功した小説とは思えない.企てとその実行自体にはもちろん,当時なりの価値があって,その価値は今もなお,現代なりの意味を持つのだろうけれど.