昔僕は緑色がやけに好きだった.好きな色,というのが明確に存在し,それは緑だった.なぜ緑色が好きだったのだろう.なぜ緑色が好きだと思い込もうとしたのだろう.何かきっと僕にとって大切なものが緑色だったのだろう.僕はシンプルな人間だったのだ,かつて.それが、こんなに複雑な人間になってしまった.不甲斐なく思う.

久しぶりに小説を書きはじめている.まだ勝手が思い出せず,しばしば手が止まる.流れるように作文していた頃の僕は,天才だったのか,無鉄砲だったのか,とにかく随分慎重に書くようになった.結局,僕は文体にこの上なく縛られている.文体さえ決まってしまえば,さらさらと手が勝手に動く.