といになる

「ねえ,ずっと考えていることがあるの」

「なに?」

「わたしたちはどんな世界に生きているのかな」

「どんな世界?」

「そう」

「抽象的だね,ずいぶん」

「きっと最初はもっと具体的だったんだけど」

「うん」

「ずっと考えているうちに,抽象的になっていってしまった」

「よくあることだね」

「そう,たぶん,最初はとっても身体的な違和感だったと思うの」

「というと?」

「わたしの考えごとはいつも,身体的な違和感からはじまるから」

「なるほど」

「そう,それでね,自分の身体が感じる違和感をなんとか説明しようとした.自分が納得するまで」

「で,結局まだ納得していないわけだ」

「そういうこと.ねえ,わたしたちはどんな世界に生きているの?」

「ぼくに聞かれてもな」

「教えてよ」

「教わる態度じゃないよ,それ」

「じゃ,態度を変えれば教えてくれるの?」

「またそういう」

「うそ,ごめんね」

「いやいや」

「でもね,あなたはわたしと似たようなことを考えたことがある気がして」

「この世界がどんなものか?」

「あるいはそれに類することを」

「まあ,なくはないけど」

「ほらやっぱり」

「なんで嬉しそうなんだよ」

「なんでだと思う?」

「わかんないけど」

「ほんとに?」

「あーええと,それで,なんだっけ?"わたしたちはどんな世界を生きているか",だっけ?」

「そう」

「世界のありさまなんて,たぶん人それぞれだよ.きみのいうわたしたちって,つまりだれ?」

「わたしたち」

「それって,つまり……人類?」

「ちがうよ,わたしたちはわたしたちだってば」

「ごめん,わかってない」

「わかってよ」

「きみとぼくってこと?」

「そ,そゆこと」

「つまりぼくは」

「うん」

「"あなたとわたしはどんな世界に生きているの?"って」

「うん」

「きみからきかれているの?」

「そう」

「ふむ」

「教えて?」

「わかんないよ,そんなの」

「もっとちゃんと考えて」

「そう言われても」

「考えてくれればいいの」

「そうなの?」

「そうだよ.わたしがきいて,あなたが考える」

「うん」

「あなたは分かるまで考えるもん」

「どうかな」

「そうだよ,いつもそう.だから,わかったらわたしに教えて」

「うんまあ,そうすると思うけど」

「ちゃんと考えてよ?」

「ベストは尽くすよ」

「他のことにうつつを抜かしたりしないでね」

「うん」

「答えを出そうとしてよね」

「うん」

「わかるまで,ずっとだよ?」

「うん」

「なんで泣くの?」

「なんでだと思う?」

「バレたか」

「こんなやり方しなくても」

「ほかに思い付かなくて」

「大丈夫だよ,信じてよ」

「信じてるよ」

「忘れたりしないから」

「忘れてもいいよ」

「そんな」

「きいて」

「だって」

「思い出してくれればいいの」

「うん」

「ごめんね」

「うん」

「泣いちゃうね」

「うん」