「さあ,くだらないことを考えよう」

「くだらないこと」

「そう,くだらないこと」

「なぜ?」

「いいね」

「と言うのは?」

「僕がくだらないことを考えようと君に提案した,その理由について,僕と君が一緒に考える,というのが,いかにもくだらなくて,いいな,と思ったのさ」

「なるほど」

「その,なるほどっていうのは?」

「あいづちだよ」

「あいづち」

「ああ,別に,何か君の言ったことについて納得したわけじゃない」

「そうだろうね,特に内容のあることを言った覚えがない」

「認識の一致だ」

「うん」

「ここまでの一連のやりとりは,どうだろう,君が望む程度にくだらないことかい?」

「まあ,そうだね.くだらなさ,という点では,ちょうど,これくらいの塩梅を想定していた」

「つまり,くだらなさ以外の点で,何か不満があるのか」

「ある」

「聞こう」

「僕たちはまだ何も考えていない」

「わからないな」

「僕は,くだらないことについて考えよう,と言ったんだ」

「そうだね」

「いま,僕らのやりとりは,たしかにちょうどよくくだらないけれど,ここまでの会話の中に,いやしくも思考と呼べそうなものがいっぺんでも存在したと,僕には思えない」

「同感だ」

「だろう?だからさ,今のくだらなさの水準を維持したまま,これからちょっとした思考,考える,という行為を,実践してみないか」

「なるほど」

「それもあいづちかい?」

「いや,今のは了承のなるほど,だ」

「そうか」

「そうさ,さあ,では,考えようじゃないか.ともに思考しよう」

「くだらないことをね」

「ああ.ところで,」

「うん」

「考えるって,何だろうな」

「思考への意思を感じさせる,いい問いだな」

「そうだろう」

「でもダメだ」

「なぜ」

「思考について思考するのは,全然くだらなくないじゃないか」

「そうかなあ」

「そうだよ,思考というのは,考察の対象としてはかなり深刻なものだぞ」

「まあ,君がそういうのならそうなんだろうね」

「そうさ,僕はいま,実り多い思考を期待している訳ではないんだ」

「なるほど」

「ちょうど,君が口癖のように頻発するその,なるほど,って返事について」

「口癖だよ」

「その口癖について,あれこれ思い巡らす.僕はつまり,そういうくだらなさを求めているんだ」

「なるほど」

「今のなるほどは?」

「さあ?一緒に考えてみようか」

「よしきた」