「戦いが終わらないんだ」

「そうか,大変だね」

「大変だよ,僕は弱いから,戦いには向いていない.苦手なんだ」

「苦手でも,避けられないことはある.定期的な食事や,睡眠や,会話や……」

「戦い」

「その,君の戦いは,本当に避けられない戦いなのか?」

「まあ,そうだね.色々検討したけど,どうやら今のところ,戦うしかない」

「それはつまり,勝つしかないということかい?」

「ええと……?」

「戦うことと,戦いに勝つことは別じゃないか」

「ああ,そういう.いや,別に,勝たなくてもいい.というか……

「うん」

「勝てない,決して」

「負けは決まっているのか」

「そうなんだよ,だから戦いたくないんだ」

「それでも,戦うんだろう?」

「そう,それでも戦う」

「義務だからか?」

「違う」

「負けることが何か,望ましい結果に繋がるとか?」

「それも違う」

「じゃあなぜ」

「生きているからだよ,僕が僕として生きて,この意識が存在しているから」

「生きることは戦いなのか?」

「生きること自体は,戦いとは言えない」

「そうか」

「生き残ることだよ.自分の生命を諦めないこと,これは戦いだ」

「必ず負ける戦いか」

「負け方は,選べるけどね」

「それはいいことなのか?」

「少なくとも,選べないよりは,多少」

「選択の自由からの逃走が望ましいこともある」

「ある.でも,僕の戦いはそういうものじゃない.負け方を選ぶのが,この戦いの本質なんだ」

「多くの戦いは,もしかしたら,そういうものなのかもしれないな」

「どんな敗北を選ぶか?」

「そう,勝ち方は多くないが,負け方というのは,とても多様な気がする」

「多様が善とも限らないけど……」

「ただ,多様な方が,主体的な選択がもつ意味は深くなる」

「そうかなあ……」

「そんな気がするだけだよ」

「………」

「………」

「あ,そろそろ戦いの時間だ」

「行くのか?」

「行くよ,殺したりしなきゃいけない」

「そうか」

「うん」

「負けるなよ」

「負けるよ」

「じゃあ,また」

「うん」