大きな声で歌を歌った.何度も同じ曲を声が枯れるまで歌い続けていた.僕はとても嬉しかった.なんだか清々しかった.後ろめたさよりも,解放感の方がずっと大きくて,その束の間の解放感に,延々と酔っていたかったのだと思う.耳の奥にわだかまったままの声.悲しそうな声.おそらく泣き声.ぼくは励まし方もよく分からないまま,なんの根拠もないまま,大丈夫だよと繰り返した.きっと大丈夫.夏の記憶が強烈すぎて,なんだかまだ,火照った感覚の余韻が続いている.圧倒的な緑と,滝のようにふりそそぐセミの声.いやになるほどの暑さと,ヒステリックな通り雨.ビルのシルエットに切り刻まれた巨大な入道雲.僕はあの遊歩道が好きだった.きっと永遠に,さようなら.