とても感情的な文章を読んだ.短い文章だった.人生の勝ち負けを論じていた.ありふれた主張だったし,論調も穏やかだった.なのになぜ,僕はあんなにも感傷的になったのだろう.

人生に勝ちや負けなどない.人生は,人として生きていくことは,誰かや何かとの勝負ではない.人生は戦い.そう信じるのは勝手だ.その世界観を選び取ることで救われるのも勝手だ.しかし,人生のすべてを戦闘の比喩にねじ込むのは,あまりにも人間を矮小化している.人間はひとつの美しい比喩に収まるほど簡単ではない.人間はもっと複雑で,度し難い.

そんな人間として,強いて自分の人生について勝ち負けを付けるとして,その基準はなにか.それは自己イメージに対してどれだけ忠実でいられるか,という一点に尽きる気がする.いかにして自分自身であるか.自分をいかなる個性として同定するか.様々な干渉からいかにして自己イメージを防御するか.隔離するか.すなわち,自己にとっての自己という,尊厳の根幹をいかに守り抜くか.守り抜いたと宣言出来るか.ここに,およそ勝負と呼べそうな人生の部分のすべてが掛かっている気がする.