さらさらとしたスープ.とろっとしたスープ.つまり,そんな日々だった.僕のスープはさらさらとしていて,生ぬるく冷めていた.それをスプーンでただかき混ぜる日々だった.ながいこと,それを口にすることはなかった.口にできなかった.飲み込むのが怖かった.だからぼんやりと,スプーンが生み出す透き通った渦を眺めながら,過去や未来について,あり得そうにもないことを考えては,やっぱりあり得そうにないな,と思っていた.結局,それはあり得なかった.そのことに,僕は安堵している.そして,安堵していることを,とても悲しく思っている.せめて嘆いてみたかった.喪失を味わいたかった.こんな,生ぬるい安堵が欲しいわけではなかった.ただただ,悲しい.失ったことではなく,なにも得られなかったことが悲しい.なにも残せなかったことが,悔しい.