解釈と事実.美術史を片手間に勉強していて,このあたりの切り分けが非常にあいまいなことに戸惑う.少し前,物理学に凝ってあれこれと手をつけていた頃,定義,命題,定理,証明,補題,といった基本的な意味の切り分けについて物理学書はとてもおおらかで,そのおおらかさにかなり戸惑ったりもしたが,今回はその比ではない.すっかり形式科学の簡明さに慣れてしまっている僕には,こういう人文的な知識体系はとてつもなく難解に思える.

一方で,科学的な帽子を脱ぎ捨てて,虚心坦懐にお話として読む分には,これはこれで優れて面白い.列伝としても,評伝としても,あるいは群像劇としても読むことが出来るし,実際の'歴史'に立脚している分,情報が豊かでドラマチックだ.

資格のための勉強と思うと,僕などはつい自明な対象から非自明なものを掴み出すような一種科学的な態度を取りがちだが,鷹揚に書かれているもの,寛容にまとめられているものに形式的なアプローチでもって取り組むのはどだい無理な話なのだろう.郷に入っては郷に従うとも云う.論理と合理性を旨としたエゴを貫いて得るものがある場面は,(悲しいが)とても少ない.美術史の勉強もしかり,理解を置いては,解釈をまず丸呑みするところから.