すべてのありふれた祝福に拍手を送ろうと思った.そしてすべてのありふれた呪詛の,そのひとつひとつを,ほぐしていきたいとも思った.僕は聖者でも悪夢でもない,朝日でも真夜中でもない,つまらない人間の男のひとりに過ぎないのだけれど,そんな僕にも何かを寿いだり赦したり出来るのだと,してよいのだと,言い聞かせながら一日を生きた.

大いなる力を信じていた頃の話.僕は恐怖と痛みを分離することが出来ずにいた.泣いている人の顔を見て,血も出ていないのに,あざにもなっていないのに,どうして痛いときの表情をするのだろうと,すごく不思議だった.今もその不思議さは解消していないけれど,なんとなく飲み込むことはできるようになった.人はやっぱり痛いから泣くんだ.ただ,その痛みは他の誰かにとっては明らかではない場合があり,むしろ,そんな場合の方が多いのかもしれない.