6年前のこと.坂の多い街に住んでいた.僕の部屋までには,急な坂道をくだる必要があって,なんであんな場所に暮らしたのだろうと,いまだにすごく不思議だ.とにかく,僕は坂の下に住んでいた.

たくさんの本に囲まれていた.例によって,たくさんの花にも.僕はいつも自分の暮らしを書物と花束で埋め立てようとする節があって,それはいまも変わらないのだけど,その癖はあの頃から急に拍車がかかったように思う.本と花に囲まれていることが,僕の幸せだと気が付いたからかも知れない.今も,暮らしの中にたくさんのページとたくさんの花びらがあれば,あるほど,きっと僕は幸せなんだ.なんてお手軽な幸せだろう.

はやく取り戻さなくちゃいけない.僕はこの1年間,ひたすら失ってきた.きっと欲張って,一気に色々なものを手に入れ過ぎて,存在が破裂してしまったんだ.だから,今度は爆ぜて消えないように,ちょっと焦りながらも,色々と我慢して,また,取り戻す.暮らしを.