僕がかつて信じていたことは,結果だけ考えれば,ほとんどが信じるに足らないことばかりだったけれど,それら,かつて信じていたことごとの中で,幸いにして最大の予想外は,僕が救われる可能性,つまり,自分に自己救済以外の,一般に使われる意味での救済というものの可能性が,微塵にも存在するという,極めて幸福な事実だった.

僕は救われるかもしれない.僕は僕以外の存在によって救われ得る人間だった.かつて僕は,次のように信じた.つまり,僕は僕自身によってしか救われないにもかかわらず,僕は僕自身を傷つけることしかしない.つまり僕は永遠に救われない.僕に救済はない.僕に癒しの夜は来ない.決して盲ない鋼の眼球で,永遠に沈まない灼熱の太陽を見つめ続けるようにしか僕は生きていくことができない.

しかしその見立てはどうやら間違っていた.僕は自分の目を潰すことが出来るし,太陽はやがて沈む.そして,あるいは僕の眼球が真実に不滅の鋼であり,焼ける太陽に永遠が約束されていたとしても,僕は救われることが出来る.しかも自分以外の何かによって.その何かを,ではどのように呼ぶべきだろうか.天使,以外に,僕はふさわしい言葉を知らない.