歯を磨いてから,月を探して外に出た.真夜中の街は静かで,僕は自分に由来するあらゆる音を聴き分けることが出来た.髪を風が揺らす音.呼吸の音.すこし弾んだ声.近くを自転車が何度か往来したが,僕に由来しない存在はそれらくらいのもので,あとは街も,香りも,まるごと僕自身であるかのような夜だった.

粉の緑茶を牛乳に溶いて,甘草を煮込んだ汁をたらし,かき混ぜて,飲む.このところこの,名状し難い飲み物に執心していて,ふだんの幾倍も牛乳を飲んでいる.そうして,いくつかのことを思い出した.僕は牛乳の味が好きだということ.僕が牛乳の味が好きだということを忘れるくらい牛乳を飲まない生活がこのところ続いていたこと.そして,僕が牛乳を飲み過ぎるとすぐにお腹を壊す人間だったということ.