Entries from 2019-01-01 to 1 year

無秩序に無制限にただひたすらに際限なく続いてゆく一列の灰色の隊列を思う.先頭から頭蓋骨が転げ落ちて,黒い髪の少女がそれを拾う.夢だったのかもしれない.夢にしてはずいぶん繊細だったし,もちろん現実であるわけがないし,きっと僕の脳はすこし疲れ…

純粋な後悔の記録.何不自由なく掴めたはずの幸せが,とても遠くて,悲しい.手を握ることも,視線を合わせることも,本当に何もかもが遠くて,焦点がぼやけていて,とりとめがない.地に足のついた幸福をこんなにも求めているのに,僕は相変わらず足りない…

すべてのありふれた祝福に拍手を送ろうと思った.そしてすべてのありふれた呪詛の,そのひとつひとつを,ほぐしていきたいとも思った.僕は聖者でも悪夢でもない,朝日でも真夜中でもない,つまらない人間の男のひとりに過ぎないのだけれど,そんな僕にも何…

宝石を宝石で描くようなことをする.真似事だ.僕は本質的な意味できっと記述者ではない.読む人間だし解釈する人間だ.記述する自由はあまりにも,僕にはあまりにも大きすぎる.巨大な自由を持て余して僕は腐ってゆく.そして制限された不自由な檻のなかに…

大きな声で歌を歌った.何度も同じ曲を声が枯れるまで歌い続けていた.僕はとても嬉しかった.なんだか清々しかった.後ろめたさよりも,解放感の方がずっと大きくて,その束の間の解放感に,延々と酔っていたかったのだと思う.耳の奥にわだかまったままの…

ありえないことなんてない.ありえないことなんてありえない.なんだって生じる.なんだって起こってしまう.自殺も誕生も椅子の破壊も鶏卵の落下も電球のアポトーシスもなんだって生じる.適者生存の原則なんてしょせん単なる原則にすぎないとばかりに直感…

サマルカンドの空.青に支配された街を支配する青の女王,青空.きっとサマルカンドは他のどの場所よりも晴天に意味がある場所だと思う.いつか行きたい.世界を見たい.僕はたぶん何も知らないまま,どこにも行かないまま,死んでゆくけど,この貧弱な想像…

呪いの言葉が首とか視線の周囲をくるくるとまわっている.そんな日だった.これ見よがしな恨み言に,心臓がチクチクするほど苛立ったし,なにより,苛立ちを苛立ちとして表現することの難しさに,あるいは,怒り慣れていない自分の不器用な怒り方に,とても…

なんの問題もない.なんの問題も.僕の生命は言ってみれば,出窓の重たいカーテンみたいなもので,揺れることも,開かれることもなく,ただ光を遮るだけ.どんなに酷いことを言われても,どんなに悪意に晒されても,ただ光を遮るだけで,なんの問題もない.…

小鳥の声.風.音.とてつもない光.眩しかった.白い景色の中に人影が揺れた.あれはきっと僕ではない誰かだった.水面を歩きながらあくびをすると,くちからドバドバと花弁が溢れてきて,ハラハラと水面に浮いた.水面はとてつもない光を反射して,やはり…

求めて与えられるなら苦労はなく,苦労のないまま手に入れたものも少なくなく,とはいえ,なにかを獲得するためにあれこれと本気を出してみるのもそれ自体として気持ちがよく,つまり人間なんて本気を出したいだけなんだ. 本気を出せていれば気持ちがいい.…

ふわふわした気持ちで1日を過ごした.音楽を聴いたり,人と話したり,なんだかよく分からないまま,ずっとテクストチャットをしたり,手や指や爪や,足首,血管,そういう細くて長いものをあれこれ想像したりしていた. 最近よく詩を書く.詩ではなくて単な…

人は勝手に傷つく.人は勝手に傷つける.誰かはいつだって他の誰かの刃物だ.抜身の刃でない人間など存在しない.だからこそ,人間は優しくなければいけない.すくなくとも,僕は優しい人間でありたい. 朝の空気が冷たい.風はあまりない.街を見下ろすこと…

といになる

「ねえ,ずっと考えていることがあるの」 「なに?」 「わたしたちはどんな世界に生きているのかな」 「どんな世界?」 「そう」 「抽象的だね,ずいぶん」 「きっと最初はもっと具体的だったんだけど」 「うん」 「ずっと考えているうちに,抽象的になって…

僕は本当に,自分のために数学をしているだろうか.数学は僕の自己実現だろうか.僕は本当に,自分のために詩や物語を書くだろうか.文藝は僕の自己実現だろうか.僕は本当に,自分のためにプログラムを書くだろうか.プログラミングは僕の自己実現だろうか…

脳がのんびりとしている.のんびりとしすぎて,ふだんあれこれと浮かんでくる雑多なイメージも,つんとした音楽も,鳴りを潜めて,ただ,平面的な感覚だけが,眼球の奥をうろうろと漂っている. わけもなくたくさん歩いた.身体が疲れた実感はないけれど,頭…

空気は浮き足立った.日差しからは冷めた匂いがした.景色の緑が少しずつ退色してゆく.冬へと向かう気配が,視界から夏の歓喜を漂白してゆく.これからしばらく,世界は寒気の透明へと向かって滑り落ちてゆく. この国の人々は,このつかの間の時間をこぞっ…

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虚空捻り 旋律の糸を紡ぎ出す 笛吹きのまばたきのしづけさ 雨の夜の都会のマンホールを想へ ああいふものを退屈とよぶ ここを吹く風が一番好きなの と目を瞑る祖母 水羊羹 秋 彼の吸う細いタバコのフィルターをあぶる 虹が出る 美しい おもひでの反対側へ寝…

海の見える丘にのぼって,剥き出しの人生を眺めてみようとしたけれど,いわゆる人生に剥き出しの状態などなく,強いてあるとすればそれはもはや人生とは呼べない,単なる生存と言うべきもので,つまり,潮風の凪いだあの丘からは,波より他はなにも見えなか…

ボーッと眠らない夜が結構好きだ.なんだか途中からいつも楽しくなってきて,うきうきしながらボーッとする.ボーッとしていると色々な思考の断片が,断片のまま浮かんだり消えたりするのだけど,その多くは不安や不満に似たもので,幸福な人生というのは,…

何も知らなければよかったな、と,思うことは多い.知ってしまうと,知らなかった頃には戻れない.きっと知ることは,幸福でも不幸でも,良いことでも悪いことでもなくて,ただ,受け入れられる世界の有り様をちょっとだけ減らす,その原因になっているだけ…

風の肖像

率直に言って、わたしは困っていた。まだ抱えている仕事が何件も残っていたし、男爵令嬢の肖像などはほとんど描き上がってもう仕上げの段階だ。それを急に窓辺の隙間から押し掛けてきたかと思えば、寝耳のすぐそばで騒ぎ立てて、何かと思って飛び起きたが運…

眠れない夜に出かける.真っ青な夜空にどっぷり浸かって,オレンジ色の月がびちゃびちゃに濡れている.空って大きいな.こんなに大きいと,自分以外の色々なものの小ささが,寂しくて寂しくて,泣きたくなったりしないのだろうか.泣きたい時は泣いてもいい…

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"昨日から宇宙の様子がおかしい" と言う Lisp しか信じない人 "明後日の方ってどっち? あっち?" "いや,そっちはたぶん この世の終わり" 教科書のピカソを千切り終へ 犬は太平洋のやうな眼をする 完全な球にはきっとなれぬから 枯れた bouquet に香水をふ…

創作じみたことをして,すこしアイデンティティが豊かになった.工作じみたことをやると脳がすこし器用になる.数学じみたことをやると,精神がすこし安定する. 抽象というのは理解のための手段で,人間はしばしば抽象の手筈をあやまり,いたずらに難解な,…

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口づけたまぶたに響け モォツァルト その昏きまどろみの奥まで 金木犀 きみは彼岸にかへりしか 立つやおそきと さやきむらさめ 夏落つる 痣の花咲く片膝をいだきて眠る少年のごと 教員は巨大なシメジとなりにけり 曰く"この先生きのこるには" うつすらと妹の…

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月を濾し 星を漉きたる 純粋の 夜に蜂蜜を塗つて喰ふのだ 窓際にひかりをふくむ白髪と ちひさき背 日向 小鳥 杖 記憶 たましひにすくひあれかしとばかりに 楡の木陰に蝉出づる午後 風鈴を破る 破る 叩きつけて破る 破る 泣きながら 笑いながら破る 眼科医の…

頭が重い.ときどき押し寄せてくる,言葉にしたくならない類の不安の波に,今日は足元をすくわれがちだった.なんとか,それに飲み込まれるようなことはなかったけれど,それでも,否定し難い息苦しさがあった.眠ったらよくなるかな,と思って,ちょっと無…

むさぼるみたいに音楽ばかり聴いている.こんなに音楽ばかり聴くのはなん年ぶりくらいだろう.あとひとつきもこんな状態が続いたら,ひとひとりが生きる一生ぶん,音楽を聴きつくしてしまいそうだ.BGMとかいう生易しい聴き方ではなくて,没入してしまう.集…

やるべきことを一つやった.数えていないけれど,きっとまだある、やるべきことごと.すこしずつ僕からこぼれ落ちて,弾けて消えろ.また,明日がはじまる. 服を買わなきゃ.なんだか,引っ越しなら模様替えなりのたびに,靴や服がなくなる.おかしいとは思…