近頃あまり作文をしていない.なぜかというと,よくわからない.脳のリソースというのは無論有限なので,それらが全て数学と計算機に注がれている今,それらと同様か,あるいはそれ以上にコストの高い作文という行為を避けているのは,僕の脳味噌の防衛本能…

ポッカリと時間ができて,少し持て余してしまうかもな,という,自分らしくない危惧は,やはり自分らしくなかったようで,数学と計算機について調べるだけで,時間はあっという間に過ぎていく.せっかくの自由時間,思いっきり好きな勉強ができて嬉しいのだ…

夢の中でピアノを弾いていたらしい.夢の中で数学をやっていたらしい.指は動き,コンパクトな錐を扱って唸っていたという.そのうち夢の中でそれなりの長さの小説を一編書き上げたりするのかもしれない. 長いこと手元にあった手紙を渡した.喜んでもらえて…

今日も相変わらず数学のようなことをして過ごした.僕の専門は計算機科学にもよく応用されているけれど,本領は証明論における構成的な論理の下地作りであって,応用を前提とした構成になってはいない.コンピュータをある視点から捉えると,コンピュータの…

Haskell 的な Monad を Ruby で再現したものを書こうとして,書いた.とある向きへの解説のためだ.書くだけは書いたが,型情報をメソッドの上にコメントに記載する方式ではやはりプログラムとしての見通しが悪い.なにより,この手の演算について本質的な型…

"Working with Unix Processes" を読んでいる.名著だ.邦訳がなかったら僕が訳していたかもしれない.邦訳がないもので僕が真っ先に翻訳を完成させるべきなのは,おそらく "How to Design Programs" なのだけど,なにぶん大著なもので,いくら訳してもちっ…

僕はそろそろ職業人としてのプログラマではなくなる.そのことについては,自分でもそれなりの感慨がある.こういう活動……というのは,プログラムの設計と記述だが,それを生活の糧とすることが,そしてそれが可能なことが,とても自分らしいと思っていたし…

具合が悪かった.簡単に言えば病気になった.病気には慣れているので,それについては特になにも思わなかった.昔は僕も,病気になるたび,そのことについてあれこれ逡巡したり,心配したりしていたのだろうか.思い出せない.病気と聞いて思い出せるものは…

思考のメモを書いては捨てて,書いては捨てて,取っておこうと思って無くして,捨てたと思ったものが紙屑になって発見されて,僕の思考の断片はセルロースの繊維に滲んで一帯に散逸している.特に気がかりでもなかったし,結局アクティブな知識としていい速…

己をあらためて省みると,他人すなわち尋常なる他人との違いは大して大きいものではない.いや,大きいには大きいに違いないが,多くはない.多くはないどころか少ない.少ないというのはあくまで何かと比べたときの話であり,何と比べるかによってその多寡…

翻訳の日々.近頃は延々と英語を読み,淡々と日本語に直す.そんな作業を場当たり的に続けている.これが楽しい.すごく.中学時分に英語を学び始めた時,これが一生の趣味になるだなんて,誰が思うだろう.おそらく,誰も思わないし,ほとんどの人はそんな…

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火を籠めて 闇に飛沫けり 一滴の線香花火 夏のとむらひ 月いでよ かくうるはしきほほえみを 照らさで他の何をか照らさむ くちなしの香もて結ひたる黒髪の綾目留めき万朶の飾り 宵雨の名残りを受けて 池の端 ひとえの袖に泳ぐ流金も ありあけに きみの呼吸は…

大切な荷物を電車に置き忘れて,慌てふためいて,狼狽至極,すがる思いではるか遠方なる拾得物窓口まで取りにゆき,幸いにも手付かずのままだったそれを無事に回収,と安堵したのも束の間,すでに待合の予定は押しに押して,人を待たせる焦燥感に意味もなく…

試訳 Pleiades’ Dust

プレアデスの塵 I- THINKER'S SLUMBER 一幕: 思索者の微睡 With the weakening of the Roman Empire at the beginning of the fifth century, Western Europe slipped rapidly into what is now known as the Dark Ages, from which it would not emerge for…

自己認識と格闘し続けている.自分が何者なのかについては既に自分なりの答えを出している.良くも悪くも,この世界の多くの場面で僕はアウトサイダーなのだろうし,そんなことはもうとっくに呑み込んでいるつもりだ. それでも,やはり普通が遠い.普通に生…

おっと、今日はあと15分しかない.つまりこれが今日の日記であるためには,あと15分以内になんとかそれなりの分量の,テクストに起こして差し支えないような内容のある文章を書かなくてはいけない.今日は一日中ずっと外国語をやっていた.フランス語の単語…

今日は結局,一歩も部屋から出なかった.外が暑かったからじゃない.久しぶりに,外に出る用事が一切なかったからだ.二十数歩あるけば必要なあらゆるものが手に入る自宅というお手製の楽園で,僕はそれでもずっとイライラとしていた.タバコが切れていたか…

時間について.特に過ぎてゆく時間とその観測について. 楽しい時間ははやく過ぎる.物理的な連続時間ではなく,体感としての時間についてこれは鮮明に実感される. しかし楽しく過ごした時間を振り返れば,そこにはたしかに楽しく過ごした過去の記憶が濃密…

円の数をかぞえる.円,円,円,円,円,そして円.見慣れない天井には円形のオブジェクトしか存在せず,うち一つは自ら発光し,一つは使命を忘れたまま沈黙し,一つは自ら発光する円筒を鉛直方向に固定していて,残りの三つはただ単に淡々と円であり,その…

歯を磨いてから,月を探して外に出た.真夜中の街は静かで,僕は自分に由来するあらゆる音を聴き分けることが出来た.髪を風が揺らす音.呼吸の音.すこし弾んだ声.近くを自転車が何度か往来したが,僕に由来しない存在はそれらくらいのもので,あとは街も…

途中まで書いたまま,先の展望もなんとなしに見えているのにどうも手が動かずに書き進めずにいる小説を,少しだけ手直ししようとして,やめた.やはり長いものは書き慣れない.とはいえ,書かないでは書かないで精神に負荷がかかるばかり.えいと決め込んだ…

僕がかつて信じていたことは,結果だけ考えれば,ほとんどが信じるに足らないことばかりだったけれど,それら,かつて信じていたことごとの中で,幸いにして最大の予想外は,僕が救われる可能性,つまり,自分に自己救済以外の,一般に使われる意味での救済…

真っ青な夏の夜にひとりで街を歩いていると,不意に携帯電話がなった.きみからだった.液晶画面にうつるその名前を見て,身体の奥から,沈殿した記憶が舞い上がるのを感じた. もう3年になる.3年前の,あれも夏のことだった.翡翠色の海の水際を,朝焼けに…

差について考えていた.僕はとても遅れていた.まだ子供のまま,色々なことから逃げたまま,終わらせられないまま,時間にまかせてすべてが取り返しのつかない状態になるのを,これまでただ待っていた.それではいけないな,と思った. 自分を綺麗にしなくて…

感覚が波を打って押し寄せてくる.劣等感と無関心がつがいになって繁殖する.低い天井に手を伸ばして,指先で撫でる想像をする. ここを廃墟にしてしまうのが惜しくなった.廃墟になることを望まない人がいるのを知った.これまでのように埋め尽くすような書…

かぞへうた 人のまなこに (一) 蓋をして (二) 見つめし (三) 夜更け (四) いつも (五) むつかし (六) いくさ場の (幾) 名無き (七) やつがれ (八) ここのみに (九) とをく聲聞く (十) かぞへうた 旗散らし (二十) 身そのままに (三十) 他所へ (四十) 急げる …

じりじりと,結末へとにじり寄るように物語を書いている.こういう書き方を試みるのは初めてで,まだ調子がつかめていない.とはいえ,長い物語を書くためのコツというか,秘訣のようなものを掴みつつある. いままで僕は,自分の発想にあるものをなるべくそ…

指先から滴るもの.僕の指先は広義の詩のためだけにある.僕の指先は詩的なものを紡ぐためだけの筆のようなもので,そのようなもので紡がれたものは,言葉であれ旋律であれ少女であれアルゴリズムであれ,すべて詩であり,詩でいいのだ. 僕は詩人として生き…

少しずつ,動き出す.穏やかな加速度を感じる.小さな意識はすぐに萎縮して立ち止まる.不気味に凪いだ薄明かりの中を,ふわふわと透明な風船のように,目的なくさまよう.僕は最近ようやく,それを,その無目的や,無軌道や,不気味さや,薄暗さや,透明さ…

短い眠りから覚めたとき,そこに広がる景色はとても綺麗だった. 昔歩いた道をまた歩いた.昔ここを1人で歩いていたとき,僕はもしかしたらこんな光景を夢に見ていたのかもしれないな,と思った. 梅雨の晴れ間は光のカーテンのように揺れた.公園には大人と…