Entries from 2020-01-01 to 1 year

大切な荷物を電車に置き忘れて,慌てふためいて,狼狽至極,すがる思いではるか遠方なる拾得物窓口まで取りにゆき,幸いにも手付かずのままだったそれを無事に回収,と安堵したのも束の間,すでに待合の予定は押しに押して,人を待たせる焦燥感に意味もなく…

試訳 Pleiades’ Dust

プレアデスの塵 I- THINKER'S SLUMBER 一幕: 思索者の微睡 With the weakening of the Roman Empire at the beginning of the fifth century, Western Europe slipped rapidly into what is now known as the Dark Ages, from which it would not emerge for…

自己認識と格闘し続けている.自分が何者なのかについては既に自分なりの答えを出している.良くも悪くも,この世界の多くの場面で僕はアウトサイダーなのだろうし,そんなことはもうとっくに呑み込んでいるつもりだ. それでも,やはり普通が遠い.普通に生…

おっと、今日はあと15分しかない.つまりこれが今日の日記であるためには,あと15分以内になんとかそれなりの分量の,テクストに起こして差し支えないような内容のある文章を書かなくてはいけない.今日は一日中ずっと外国語をやっていた.フランス語の単語…

今日は結局,一歩も部屋から出なかった.外が暑かったからじゃない.久しぶりに,外に出る用事が一切なかったからだ.二十数歩あるけば必要なあらゆるものが手に入る自宅というお手製の楽園で,僕はそれでもずっとイライラとしていた.タバコが切れていたか…

時間について.特に過ぎてゆく時間とその観測について. 楽しい時間ははやく過ぎる.物理的な連続時間ではなく,体感としての時間についてこれは鮮明に実感される. しかし楽しく過ごした時間を振り返れば,そこにはたしかに楽しく過ごした過去の記憶が濃密…

円の数をかぞえる.円,円,円,円,円,そして円.見慣れない天井には円形のオブジェクトしか存在せず,うち一つは自ら発光し,一つは使命を忘れたまま沈黙し,一つは自ら発光する円筒を鉛直方向に固定していて,残りの三つはただ単に淡々と円であり,その…

歯を磨いてから,月を探して外に出た.真夜中の街は静かで,僕は自分に由来するあらゆる音を聴き分けることが出来た.髪を風が揺らす音.呼吸の音.すこし弾んだ声.近くを自転車が何度か往来したが,僕に由来しない存在はそれらくらいのもので,あとは街も…

途中まで書いたまま,先の展望もなんとなしに見えているのにどうも手が動かずに書き進めずにいる小説を,少しだけ手直ししようとして,やめた.やはり長いものは書き慣れない.とはいえ,書かないでは書かないで精神に負荷がかかるばかり.えいと決め込んだ…

僕がかつて信じていたことは,結果だけ考えれば,ほとんどが信じるに足らないことばかりだったけれど,それら,かつて信じていたことごとの中で,幸いにして最大の予想外は,僕が救われる可能性,つまり,自分に自己救済以外の,一般に使われる意味での救済…

真っ青な夏の夜にひとりで街を歩いていると,不意に携帯電話がなった.きみからだった.液晶画面にうつるその名前を見て,身体の奥から,沈殿した記憶が舞い上がるのを感じた. もう3年になる.3年前の,あれも夏のことだった.翡翠色の海の水際を,朝焼けに…

差について考えていた.僕はとても遅れていた.まだ子供のまま,色々なことから逃げたまま,終わらせられないまま,時間にまかせてすべてが取り返しのつかない状態になるのを,これまでただ待っていた.それではいけないな,と思った. 自分を綺麗にしなくて…

感覚が波を打って押し寄せてくる.劣等感と無関心がつがいになって繁殖する.低い天井に手を伸ばして,指先で撫でる想像をする. ここを廃墟にしてしまうのが惜しくなった.廃墟になることを望まない人がいるのを知った.これまでのように埋め尽くすような書…

かぞへうた 人のまなこに (一) 蓋をして (二) 見つめし (三) 夜更け (四) いつも (五) むつかし (六) いくさ場の (幾) 名無き (七) やつがれ (八) ここのみに (九) とをく聲聞く (十) かぞへうた 旗散らし (二十) 身そのままに (三十) 他所へ (四十) 急げる …

じりじりと,結末へとにじり寄るように物語を書いている.こういう書き方を試みるのは初めてで,まだ調子がつかめていない.とはいえ,長い物語を書くためのコツというか,秘訣のようなものを掴みつつある. いままで僕は,自分の発想にあるものをなるべくそ…

指先から滴るもの.僕の指先は広義の詩のためだけにある.僕の指先は詩的なものを紡ぐためだけの筆のようなもので,そのようなもので紡がれたものは,言葉であれ旋律であれ少女であれアルゴリズムであれ,すべて詩であり,詩でいいのだ. 僕は詩人として生き…

少しずつ,動き出す.穏やかな加速度を感じる.小さな意識はすぐに萎縮して立ち止まる.不気味に凪いだ薄明かりの中を,ふわふわと透明な風船のように,目的なくさまよう.僕は最近ようやく,それを,その無目的や,無軌道や,不気味さや,薄暗さや,透明さ…

短い眠りから覚めたとき,そこに広がる景色はとても綺麗だった. 昔歩いた道をまた歩いた.昔ここを1人で歩いていたとき,僕はもしかしたらこんな光景を夢に見ていたのかもしれないな,と思った. 梅雨の晴れ間は光のカーテンのように揺れた.公園には大人と…

ときにはふるえるほどの感動と,怠惰への鞭を.あるいは降り注ぐ灰.雑踏の中を這っていく聴覚.過敏な色彩.慈愛で舗装された畦道.義務と責務と能力.なにもかもが満たされていて,なにもかもが足りない.眠ることも目覚めることも下手なままだ.魂が欲し…

結局,ずっと話していた.肺の違和感を引きずって歩いた.青空を,満開を控えた桜の花がまばらに遮っていた.もう冬は終わってしまって,春になって,僕はまたひとつ,形式的に時間を重ねる.積もり積もった時間の長さに手先がふるえる.無力感に膝が割れそ…

脳がいささか暴走気味で,多動に拍車をかけていた.発散されるべきエネルギーは,キーンと高い音を立てて一点に絞られ,焼けつき,焦した.その結果,一粒の涙が流れたことを,僕はきっと忘れてはいけない.過剰はいつも傷つける.それが自分が他人か,人か…

さらさらとしたスープ.とろっとしたスープ.つまり,そんな日々だった.僕のスープはさらさらとしていて,生ぬるく冷めていた.それをスプーンでただかき混ぜる日々だった.ながいこと,それを口にすることはなかった.口にできなかった.飲み込むのが怖か…

「まったく,いやになるね」 「ほんとだよ」 「なにが?」 「ん?」 「きみは僕が何について,"まったくいや"になっているのか,分かって返事をしたのか?」 「そんなわけないだろう」 「そんなわけないよな」 「だってきみはまだなにも具体的な話をしていな…

一枚の写真をずっと眺めていた.何か意味があるものが写っていると信じて,くまなく写真の中を探した.浮ついた感情以外,なにも写っていなかった.少なくとも,今の僕にとってその写真は,なんの意味ももっていなかった.それなのに,そのはずなのに,目が…

あっという間に時間は過ぎていく.僕は変わっていく.変わっていって欲しくなかった多くのもの.変わって欲しかった多くのもの.大好きだったもの.許せなかったもの.どちらもたくさんある.記憶ばかり溢れてくる.最後,祝福で終えられなかったことを今更…

大きな変化に対して,そして,その変化に対する準備が,心身共に不十分であった時,できることはなんだろう.変わっていく自分を受け入れる準備が整う前に自分が変わってしまった時,出来ることはなんだろう.主体的に,なにか出来るのだろうか.何かできる…

昔僕は緑色がやけに好きだった.好きな色,というのが明確に存在し,それは緑だった.なぜ緑色が好きだったのだろう.なぜ緑色が好きだと思い込もうとしたのだろう.何かきっと僕にとって大切なものが緑色だったのだろう.僕はシンプルな人間だったのだ,か…

石を吸う

「あ,カモメ」 彼がそう言って指差した先.青空の中,真っ白な鳥が数羽,夏の海風を受けて踊っていた. 「カモメ……ですね」 そう返事したわたしは,空も鳥も見ていなかった.すっと夏の空に突き刺さった,彼の細いひとさし指をだけ,見ていた. 彼は空の青…

助けを待っている. 暗い場所.トンネルなのか,とにかく,陽の当たらない細長い,管の中を,同じ方向にずっと歩き続けている.誰かに会えるのを待ちながら歩いている. 助けてほしい.終わらせてほしい.僕は疲れ切っている.まだ疲れていなかった頃の自分…

書きたいことがたくさんある.書いてきちんとした思い出にしたい.僕は書きながら覚えるし,僕は書きながら思い出す.筆記と記述は僕の中でとても密接に結合している. 覚えておきたいことというのは,つまりすぐに思い出したいことだ.僕はこの数日間の出来…